地上400キロの実験室 ISS「きぼう」では何が行われているの?:週末サイエンス
地上400キロに浮かぶ「国際宇宙ステーション」(ISS)内にある日本の実験棟「きぼう」。無重力という特殊な環境を生かし、宇宙観測だけでなく物理学や医学などさまざまなジャンルの実験が日々行われています。
地上約400キロに浮かぶ、人類史上最大の宇宙施設「国際宇宙ステーション」(ISS)。約100×73メートルとサッカー場ほどの大きさがある約420トンの建物が、地球の周囲を1周90分かけて回っています。日本の実験棟「きぼう」の名前を聞く機会もちらほらありますが、中では一体どんな実験が行われているのでしょうか。
ISS計画は欧米やロシア、カナダなど、日本を含む15カ国で構成されています。日本初の有人実験施設である実験棟「きぼう」は、ISSの中でも最大の実験モジュール。天体観測や地球観測を行う「船外実験プラットフォーム」と、長さ11.2メートル・直径4.4メートルの船内実験室に分かれています。船内実験室の内部には、ロッカールームのように、さまざまな用途に合わせた実験ラックが設置されています。
物理学や医学の研究も どうして宇宙で?
きぼうでは宇宙観測だけでなく、医学や生物学、物理学に関わる実験も日々行われています。なぜわざわざ宇宙で――と思いますが、その理由は無重力。ISSの中は地球の100万分の1ほどの重力しかないため、地球上では重力によって隠されてしまう現象や、特殊な環境だからこそ起きる現象を細かく観察できるメリットがあります。
例えば、半導体の結晶を作る実験。結晶への熱の影響を避けるため、熱対流を受けない無重力環境で結晶の成長の仕組みを観察・解明しようとしています。より効率よく電気を通す物質を作り出す方法やメカニズムが分かれば、コンピュータや電子機器の性能向上につながると期待できるのです。
生物や植物の分野でこれまで行われた有名な宇宙実験といえば、1994年にスペースシャトル・コロンビア号で行われた「宇宙メダカ」でしょう。宇宙でメダカは産卵できるか、産卵した卵は正常にふ化するかなどを観察しました。きぼうでも「ミトコンドリアは宇宙でどう働くか」「植物の根はなぜ曲がるのか」――などの実験が行われています。
いつか人類が宇宙で生活する日が来ることを見据えた「宇宙医学」も注目の分野の1つです。重さの負荷がかからない無重力環境では骨や筋肉が弱くなり、免疫力が低下するなどの肉体的変化が生じます。“宇宙に住む”未来がやってくるとしたら解決しなければならない医学的・健康的な問題に迫る中で、健康管理や維持、予防医学の視点で地球上でも応用できる知見を集めています。
SFの世界を現実にするために――そんな実験の1つが、地上から宇宙空間まで輸送機を昇降する「宇宙エレベーター」の素材として活用が見込まれるカーボンナノチューブを使った実験です。実際に宇宙空間でカーボンナノチューブをむき出しにさらし、紫外線や放射線の影響や耐久性を調べています。宇宙旅行はエレベーターに乗って、という時代が来るかもしれません。
地球からISSを観測しよう
「きぼう」の広報Webサイトでは、最新の利用状況を日々発信しています。「宇宙実験サクッと解説」では、さまざまなジャンルの実験内容を会話調でやさしくまとめています。
毎日地球の周りを回っているISS。空を横切る姿を地上から観測することもできます。今日はこの時間にこのあたりの空で見られるはず――ということを確認できるサービスも提供しています。
7月には、日本人11人目となる宇宙飛行士の大西卓哉さんが、ISSの長期滞在クルーとしてロシアの新型宇宙船「ソユーズMS」に乗って出発する予定です。宇宙に関するニュースだけでなく、ISSで行われている実験にも注目してみてください。
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