「アニメ制作は全てAIに代替されるかもしれない」 AT-X・岩田社長「創造領域の侵食が始まっている」
機械的な業務は人工知能(AI)に仕事を奪われる。クリエイティブな仕事なら安心。そんな安全神話が崩れる日も近いかもしれない。AT-Xの岩田社長がアニメ業界を例に、AIの可能性を語った。
「給与が低くて将来や老後が不安」「人間らしい仕事がしたい」──日本が世界に誇るアニメの製作現場では、低賃金や法定勤務時間の超過といった問題が指摘されている。日本アニメーター・演出協会「JAniCA」が2015年に公開した報告書によれば、アニメの制作に関わる労働者の平均年収は、全国平均に比べて大幅に下回っているという。
一方、近年進化が著しい人工知能(AI)技術は、少子高齢化が進む日本おいて、労働力を補う一端を担えるのではないかと期待されている。問題が浮き彫りのアニメ業界にAIの導入が進んだら? アニメ業界の最前線にいるエー・ティー・エックスの岩田圭介社長が未来を語った。
アニメ制作は全てAIに代替できる?
岩田社長は、『新世紀エヴァンゲリオン』『ポケットモンスター』『NARUTO』『遊戯王デュエルモンスターズ』『ケロロ軍曹』『ヒカルの碁』『テニスの王子様』など数多くのヒット作品を生み出してきた敏腕プロデューサー。1979年に東京12チャンネル(現テレビ東京)へ入社し、現在はアニメ専門チャンネル「AT-X」などを運営するエー・ティー・エックスの社長を務める。これまでに関わってきたアニメは数百本にのぼるという。
岩田社長は、2月9日にデジタルハリウッド大学大学院 駿河台キャンパスで開催された「アニメ・ビジネスフォーラム+2017」に登壇。アニメ制作と進化するAIの現状について語る中で、完成品を人間の目で確認する「ラッシュチェック」をのぞき、「アニメの制作過程が、全てAIで置き換えられることは十分に考えられる」と話す。
AIはアルゴリズムに従った行動、つまりマニュアルに沿った業務をこなすのが得意とされている。アニメの制作のうち、レイアウト、動画、スキャン、デジカメ取り込み、デジタルペイント、デジタル合成、レコーディングフィルムといった工程はマニュアル化できるため、「AIが作業を代替することは可能だろう」と岩田社長は語る。
決められた範囲で仕事をこなすことを得意とするAIに対し、人間はどこで勝負すればいいか。アニメの制作工程で言えば、キャラクター設計、絵コンテ、美術設計、背景、音響作業、色彩設定など、人のアイデアと手を動かして創り出す“クリエイティビティ”の工程である──と、これまでは考えられていた。
ところが、最近はクリエイティブ分野でもAIが台頭しているという。AIは「機械学習」や、その中の1つの手法である「ディープラーニング」といった技術によって、AI自らが膨大な情報を学び、人間が気付かないような物事の特徴を見つけられるようになった。
例えば、米Microsoftやオランダのデルフト工科大学などの共同チームが昨年行ったプロジェクトでは、17世紀のオランダ画家・レンブラントが描いた絵画作品全346作品をAIに読み込ませ、絵画のテーマや構図といった特徴を学習させたところ、分析したデータから、レンブラントの画風をまねた、全く新しい絵画を描くことに成功している。
つまり、エヴァンゲリオンシリーズや映画「シン・ゴジラ」などを手掛けた庵野秀明監督の作品をAIに学習させれば、“庵野監督風”の完全新作作品がAIによって制作できる──といった可能性もあるという。
岩田社長はこういった例を挙げながら、人間とAIはクリエイティビティ分野においても競争になるだろうと結論づける。最後には、講演を聞いていた学生らに対して次のようにコメントした。
「AIによる“創造領域”への侵食が既に始まっている。キャラクター設計や絵コンテ、美術設計、背景、音響作業、色彩設定といったものもAIが担えるようになるだろう。人間は、AIと違って“忘れられる機能”を持ち、脳を使い続ければ進化し続けられる。自分で脳みそを鍛え続ければ、(AIに負けない)クリエイティビティが発揮できるはず」(岩田社長)
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