SIを封印して“なるべく作らない” NECの「政府向けクラウド」独自戦略(2/3 ページ)
NECが7月から、日本政府向けのクラウド事業に本格参入している。だがこの領域には、外資系大手のAWSや、国産ベンダー数社が既に参入している。競争が激化する市場でどのように戦っていくのか、NECの担当者に聞いた。
セルフ・ホステッド型でServiceNowも政府に提供
政府が今後マルチクラウドを活用するようになれば、異なるベンダーのクラウドの“いいとこ取り”ができる。一方、各クラウド上にシステムが乱立し、データがサイロ化する懸念もある。
複数のクラウドでサイロ化が起これば、インフラの運用面で課題になりかねない。例えば、IaaSはベンダーごとに監視の仕組みが異なる。それらを別々に使えば、運用管理のプロセスもばらばらになる。この状態で、複数のクラウド上のサービスを連携して利用すると、トラブルが起きた際に原因を究明する作業が複雑化し、迅速な対応が難しくなる。
こうした課題を解消するため、NECは政府向けに、米ServiceNowが展開するSaaS型の運用管理自動化ソリューション「ServiceNow」を提供する。ServiceNowは異なるクラウドサービスを1つのプラットフォームに統合して管理できる機能を持ち、NECも自社のITインフラの運用管理に活用している。
だが、政府向けのITシステムには、セキュリティの観点からインターネット経由で直接接続できないものもある。それらは本来、SaaSであるServiceNowでは対処できないが、NECは政府向けに“特注”の仕組みを提供する。
NECの上坂利文氏(サービスプラットフォーム事業部長)は「ServiceNowの米国本社と協議し、インターネットに接続しない環境でもServiceNowを利用できるセルフ・ホステッド形式のサービスを提供する契約を新たに結んだ」と明かす。
セルフ・ホステッドであれば、政府のセキュリティ要件に合わせて、パブリッククラウドや専用環境を含む、さまざまなクラウドの統一的な運用管理にServiceNowを利用できるメリットがある。
競合を意識したわけではない
このように政府に適したサービスを複数用意しているNECだが、同社は過去にも、政府向けにITシステムの開発やセキュリティ対策などのサポートを行ってきた実績がある。だが、案件の内容を公にしてこなかったという。
今回あらためて政府向けクラウド事業の強化を発表した理由は、政府がデジタル・ガバメント実現に向け、20年3月に「政府情報システムのグランドデザイン」を策定したからだという。グランドデザインは「政府情報システムの将来的な在り方」を意味し、「役所の窓口ではなくスマートフォンなどでの行政手続きを実現する」といったビジョンが記されている。
「政府から『グランドデザインに対して何ができるか』との問いかけがあり、(発表は)それに応えるものだった」と上坂氏。政府が「政府共通プラットフォーム」にAWSを採用する方針を固めたことや、他の国産ベンダーが政府向けクラウドの分野に参入していることを意識し、対抗して発表したわけではないという。
「政府がデジタル・ガバメントを実現するに当たっては、まだまだやることが多い。多様な企業がこの領域に参入しないと、政府の掲げるビジョンは実現できないだろう。他社との競争ももちろんあるが、むしろどんどん参入し、政府向けクラウドの市場全体を盛り上げてほしい」と諸藤氏は言う。
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