SaaS導入で従業員の休みが増えた 人不足の地方中小がクラウド活用で変わった話(2/2 ページ)
事業拡大の一方、人不足による業務の属人化と、情報共有の不備に課題を抱えていた中小企業。複数のSaaSを導入し業務改善を図ったところ、従業員の負荷を減らし、休みを増やすこともできたという。成功のカギはSaaSを使わざるを得ない仕組み作りにあった。
その秘策とは、全従業員が自然と毎日Salesforceにログインするような仕組みを作ることだ。SalesforceのPaaS上に構築された勤怠・就業管理システム「TeamSpirit」を採用。さらにSales Cloudには、ガス販売に関連するさまざまな資格や免許の取得状況や更新スケジュールなども集約して管理できるようにした。
「PCを使うことすらおぼつかない社員もいたが、自身の給与や待遇に直接影響する情報もSalesforce基盤で管理にするようにしたことで、目の色が変わった」(高橋副社長)
並行して、全従業員にITを活用した組織・業務改革に取り組む理由やそのメリットを説明する機会も設け、SaaSを活用した新しい業務フローへの抵抗が少なくなるようにした。
社内の理解が進むにつれて、事務作業の負荷削減も進んだ。結果、従業員の休みを増やすなど、待遇改善にもつなげた。例えば、年間休日はSaaS導入前に比べて24日増加。これまでは業態上難しかった完全週休2日制も実現できた。
担当者の引き継ぎに要する期間は3カ月以上から1.5カ月に短縮。給与に関する事務作業も従来は1週間かかっていたが、半日まで短くなった。いずれも、社員を増やさず実現できた。
顧客からの評価も向上した。従業員に対して電話やメール、手紙などで寄せられる感謝の声やポジティブな評価も、SaaS導入後、3倍以上に増加したといい、従業員のモチベーション向上にもつながりつつあるという。
自社でのカスタマイズも成功要因?
SaaSを活用した新しい業務フローへの抵抗を減らすことで、業務削減と従業員の待遇改善をまとめて実現できた高田屋。同社がSaaSを定着させることができた背景にはもう一つ理由があるという。それは、内製でのカスタマイズが成功したことだ。
実は、免許・資格の情報や求人・採用情報、ウォーターサーバーの納入状況、メンテナンスのスケジュールについては、Sales Cloudをカスタマイズして、独自に管理の仕組みを作成した。ツール間の連携なども基本的には自社で手掛けた。
「システムの知識が豊富な外部ベンダーにカスタマイズを委託しても、ユーザー企業の内部事情や業務をよく理解しておらず、期待通りの成果物は得られないケースは少なくない。情報システム部門が設置されていない中小企業でも、社内に導入のリーダー的存在をつくることができれば内製化は機能する」(高橋副社長)
Salesforce製品はオンライン学習サービスなどの教材が多く、YouTubeやブログなどで知見を発信している人も多かったことから、自社でのカスタムがしやすかったという。
高田屋は内製化で得た知見を新たな事業として展開することも検討している。同社は内製したカスタマイズの成果をエネルギー事業者向けソリューションとしてパッケージ化。Salesforceの拡張アプリケーションのマーケットプレース「AppExchange」上で販売することも視野に入れているという。
事業の多角化を進めてきた高田屋。Salesforceの導入によりITソリューションベンダーとしてのビジネスチャンスをつかむ可能性も得たといえそうだ。
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