中国政府がIT企業の規制を緩和、大手のIPOへ前進か!?:浦上早苗の中国式ニューエコノミー(2/5 ページ)
2023年は、20年11月から2年以上続いた中国政府によるIT業界の締め付けが緩みそうだ。中国の新年に当たる春節を前に、政府の方針転換を示すシグナルが相次ぎ点灯。アント・グループや配車サービス最大手DiDiのIPO手続きも前進すると期待が高まっている。
アントの上場差し止めから始まった規制
中国IT業界が何の前触れもなしに冬に突入したのは20年11月。史上最大規模のIPOとして世界中から注目されていたアリババグループの金融子会社「アント・グループ」の上場が、直前で無期限延期に追い込まれたことがきっかけだった。
10月下旬に公の場で金融規制を“牽制”したアリババおよびアントの創業者ジャック・マー(馬雲)氏は当局に呼び出され、以降ピタッと公の場に出なくなった。22年末には日本に半年滞在していたと、欧州メディアが報じた。
アントの上場を差し止めた当局の主な言い分は「金融業務を手掛けているのに金融業務のライセンスを取得することもなく、金融当局の監督を受けていない」というものだった。
アントの前身「支付宝(アリペイ)」は、アリババのECプラットフォームの決済サービスとして04年に誕生。11年にアリババから分社し決済、融資、保険など金融のあらゆる分野を手がけるフィンテック企業に成長した。アリペイのユーザーは10億人を超え、そこから収集する膨大なデータによって個人の信用をスコア化し、革新的なサービスを生み出してきた。10年代半ばに世界中から注目された「キャッシュレス社会」の立役者となったアリペイは、マー氏にとってアリババに続く「第二創業」ともいえる事業だった。
アントは信用スコアを基に、既存の金融機関が手を出さない消費者や中小零細事業者に低利で融資したり、利回りの高い金融商品を提供し、金融機関のシェアも奪っていった。データやお金の流れをIT企業が独占することに危機感を覚えた中国当局と、経営基盤を浸食された金融機関の思惑が一致し、アントの指導をきっかけに「フィンテック規制」の流れが加速した。
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