中国政府がIT企業の規制を緩和、大手のIPOへ前進か!?:浦上早苗の中国式ニューエコノミー(4/5 ページ)
2023年は、20年11月から2年以上続いた中国政府によるIT業界の締め付けが緩みそうだ。中国の新年に当たる春節を前に、政府の方針転換を示すシグナルが相次ぎ点灯。アント・グループや配車サービス最大手DiDiのIPO手続きも前進すると期待が高まっている。
ジャック・マー氏がアント経営から離れる
この2年、IT企業は規制を恐れ目立たないことに徹してきた。世界でメタバースが盛り上がるなか、同分野に投資を続けるテンセントやバイトダンス(字節跳動)は、公の場では「具体的な事業計画はない」と沈黙を貫いている。しかし今年は、状況が変わるかもしれない。
23年1月7日、アントグループが資本関係の見直しによるコーポレートガバナンスの刷新を発表した。最大の目玉はマー氏が経営権を持つ実質支配株主から外れたことだ。
アントの株主構造は、長らく以下の図のようになっていた。詳細な説明は省くが、図にある井賢棟氏(アント董事長兼CEO)、胡暁明氏(前アントCEO)、蒋芳氏(アリババG副再興人事責任者)は実質的支配権を持つマー氏の「一致行動人」として議決権を行使するため、マー氏は実質的にアントの議決権の53.46%を握っていた。
刷新後(下図)は、創業者のマー氏、アント董事長の井氏のほか、アント経営陣、従業員代表など10人の主要株主の議決権を独立させ、互いに関与しないよう見直した。マー氏の議決権比率は6.208%に下がり、アントを直接・間接的に支配する株主は存在しなくなる。アントは「議決権が透明化・分散化され、健全な成長に寄与する」と説明した。
アントは21年4月に金融当局から不当競争行為是正措置を要求され、消費者金融事業の切り離しや、アリババとの支配関係の線引きを進めてきた。マー氏が支配権を手放すのは、是正措置の「仕上げ」と解釈できる。
アントのガバナンス刷新に先立つ22年12月30日も、大きな動きがあった。
重慶の金融当局が、アントの消費者金融事業を継承するために設立された「重慶●蟻消費金融会社(●は虫へんに馬)」の資本金を80億元(約150億円)から185億元(約3550億円)に増資する計画を承認したと発表したのだ。
増資では杭州市人民政府が実質的な経営権を持つ杭州金投数字科技集団が18億5000万元(約355億円)を出資し、10%の株式を保有する第2株主になる。国有会社が出資し大株主になることは、アントと当局の関係正常化を示すサインと受け止められた。
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