深海生物「オオグソクムシ」、1度の食事が6年分のエネルギーに? 長崎大などが代謝量を調査
長崎大学と信州大学、琉球大学の研究チームは、深海生物「オオグソクムシ」は自身の体重の45%のえさを1度に食べ、約6年分のエネルギーを獲得できると発表した。
深海生物「オオグソクムシ」は1度の食事で自身の体重の45%のえさを食べ、約6年分のエネルギーを獲得できる──こんな研究結果を、長崎大学と信州大学、琉球大学の研究チームが3月17日に発表した。
生物が生きるための消費エネルギー量である代謝量は食事や水温によって変化するが、深海生物の場合はどのような影響があるか明らかになっていなかった。研究チームは、オオグソクムシの酸素消費量から代謝量を計測。4種類の異なる水温下での安静時の代謝量と、えさを食べた後の代謝量を比較し、食事と水温の影響を調べた。
結果、オオグソクムシは最大で自身の体重の45%ものえさを食べることができ、食事後に代謝量が上昇する「特異動的作用」と呼ばれる現象が見られた。この現象を深海生物で観測したのは、今回が初という。また、えさをたくさん食べた個体は運動能力が低下し、活動度が制限されている可能性があるとも分かった。他にも、水温が10度上がると代謝量は、2.4倍増えることも明らかになった。
今回の実験を踏まえると、体重33gのオオグソクムシは水温10.5度のとき、年間に消費するエネルギーは約13キロカロリーであると計算できるという。これは、体重の45%の量のくじらの脂身(85キロカロリー/15g)を食べた場合、安静時の約6年分のエネルギーを獲得できることになるとしている。
研究チームは「オオグソクムシと近縁の『ダイオウグソクムシ』が水族館で餌を5年間食べなくても生きていた、という報告を目にして『なぜ、そんな長期間食べなくても生きていられるのだろう? どれくらいのエネルギーが生きていくために必要なのだろう?』という好奇心に基づいて始めた研究である」と経緯を明かす。
続けて「深海生物特有のエネルギーの獲得と使い方の情報は、気候変動の影響や多様な生存戦略を理解する上で重要な知見になる」と研究の重要性を説明。今後はオオグソクムシのフィールド調査にも取り組むなど、調査を継続する方針を示した。
この研究成果は、国際学術雑誌「Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers」に3月3日付でオンライン掲載された。
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