生産性を激上げする日程調整ツール対決 Calendly vs Spir:日程調整SaaS対決(2/4 ページ)
発展途上の日程調整ツールではあるが、コロナ禍を経て確実に変わった商習慣の中ではこれまで以上に業務の効率化に寄与してくれるはずだ。私は近いうちに「日程調整ツールで候補日程を提示しないのは失礼だ」と言われる日が来ると信じている。それぐらい、メールやチャットでのアナログな日程のやり取りには無駄が多い。
1000万人が使う日程調整ツール・Calendly
Calendly社は営業マンをしていたトペ・アウォトナが、2013年に米国アトランタで立ち上げたスタートアップである。21年に3億5千万ドル(約460億円)の資金調達を実施し、Calendlyは今では1000万人以上が使う世界最大の日程調整ツールになっている。
CalendlyはフリーミアムのSaaSであり、プロダクトがプロダクトを売る事業モデルであるProduct Led Growth(プロダクト・レッド・グロース、以下「PLG」)のお手本のようなツールである。基本的には非常にシンプルな機能で構築されており、基本機能は無料で利用できるため、ユーザー登録さえすれば、即座にCalendlyで日程調整を行える。
Calendlyは、カレンダーの空き時間を簡単に管理・共有できるプラットフォームだ。相手と日程調整をする際に、ユーザーはCalendly上で発行したURLをメールやチャットで共有するだけですむ。URLをクリックした相手は、Calendly上で候補日程から都合の良い日程を選択し、アポイントを確定させるわけだが、Calendlyが気に入ればそこでユーザー登録をして、利用を開始できる。Calendly上での日程調整は、すなわちCalendlyへの招待状の役割も兼ねているわけだ。
FacebookやLINEなどと同様に「周りの人間が使っているから自分も使う」というネットワーク効果が有効に働くツールであり、Calendlyはほとんど広告費を使わずに着実にユーザー数を増やしてきた。コロナ禍の20年には前年比1180%の伸びを記録し、Zoomなどと同様にコロナによる商習慣の変化に追い風を受けたツールの1つとなった。
日程調整機能には、自分のカレンダーから自動的に空き枠を抽出してくれる機能と、手動で時間枠を複数選択し提示する機能の2種類が利用可能だが、カレンダーの最新の予定を常に反映して空き枠を抽出してくれる前者の方が利用頻度は高いだろう。後者は、重要なアポイントの場合などに事前に複数の日程を押さえておく場合などに活用できる。
単なる日程調整機能だけであれば、無料で提供するツールも増えてきており、HubSpotやGoogleカレンダーでも機能の一部として提供されている。そんな中でもCalendlyがいまだに多くのユーザーの支持を得ているのは、機能が増えてもシンプルで使いやすいUIが維持されていることだ。利用者自身はもちろんのこと、日程調整を依頼される相手方も迷うことなく利用できる。
また、有料ユーザーにはチームでの利用を想定した機能(複数人の空き時間を考慮して日程を抽出する)や、Webサイトに組み込んで問い合わせ時にそのまま日程調整まで完結させてしまう機能などが提供されている。決済機能も提供されており、日本ではあまり見かけないが、弁護士やコンサルタント、カウンセラーなどの時間単位でチャージする専門職によく利用されているようだ。Calendlyは日程調整のプラットフォームとして、アポイントが発生するビジネス上のあらゆるやり取りを効率化することで、独自のポジションを構築しているのである。
なお、Calendlyは現時点では日本語対応をしておらず、これが日本で知名度が低い要因の1つだ。SlackやNotionなどは日本語対応する前から日本国内でたくさん使われていたが、これらのツールは自分の組織内で完結するため、同じようなITリテラシーと英語力がある組織で使う分には問題がない。一方で、Calendlyは日程調整ツールであるため、社外に対して空き時間を提示する関係上「日本語に対応していない」という時点で利用ハードルがかなり高く、結果としてネットワーク効果が日本では機能していない。
筆者も以前Calendlyを使っていたことがあるが、複数の知人から「英語のUIで、日程調整はスムーズにできるのか」と聞かれたものである。後述するSpirが登場してからは、日本語対応をしていてどんな相手にでも安心して送れることから、筆者は完全にSpirに乗り換えてしまった。
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