AIは著作権を持てるか……中国でバーチャルヒューマンの「権利」を巡る初の判決:浦上早苗の中国式ニューエコノミー(5/5 ページ)
ChatGPTなどの生成AI技術に注目が集まるなか、AIを巡る知的財産権の法的枠組みの整備も急務となっている。AIを活用したバーチャルヒューマンの普及が進む中国では、バーチャルヒューマンの権利侵害を巡る訴訟で国内初の判決が下された。しかし、今回の判決では解決できない問題も残る。
学習し、成長するバーチャルヒューマンの扱いは?
今回の判決はバーチャルヒューマンの創作から使用に関わる複数の当事者の権利関係を初めて定義した点で画期的と評された。
ただ、AI技術やバーチャルヒューマンはAdaがつくられた19年と比べると飛躍的に進歩している。
例えば中国のトップ大学である清華大学が21年に開発し、IT専攻の学部生として大学に「入学」させたバーチャルヒューマン「華智氷(Hua Zhibing)」は、テキストや画像、動画などから目的に合ったパターンを絶えず学習し、子どもが周囲を観察したり経験して行動パターンを学ぶように成長していく。
開発チームは当時、「華智氷の知的レベルは6歳程度だが、1年後には12歳程度になる」と説明したほか、華智氷が将来的に詩を創作したり絵を描くようになり、プログラミングも行える知性を持つ計画を明かした。
Adaを巡る判決で、裁判所がAdaを「人」ではなく「芸術作品」と認定したのは、人間が技術的に創り出したもので、本物の人間そっくりなパフォーマンスも、実在の人間の動きをデジタル化したに過ぎないとの判断によるものだ。
バーチャルヒューマンが世の中にあるデータから学習し、オリジナルの創作物を生み出していくのであれば、今回の線引きは当てはまらなくなる。技術分野では法が現実に追いつかないことはよくあるが、AIの技術革新は人々の予想を上回るスピードで進んでおり立法側も早期の対応を求められそうだ。
筆者:浦上 早苗
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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