楽天のKDDIローミング強化で4Gは“非競争領域”に 各社の競争の舞台は5Gへ:房野麻子「モバイル新時代」(3/3 ページ)
「最強プラン」では、auローミングで提供されているパートナー回線エリアでの高速データ容量5GB制限を撤廃し、自社回線エリアと同様、高速通信を制限なく利用できることが最大の特徴だ。これは、5Gに注力したい両社の思惑が一致した結果だともいえる。
キーになるのが5Gだ。5G端末を利用するユーザーは4Gユーザーよりもデータ通信量を2倍以上使うという調査結果もあり、5Gエリアの充実がARPUの上昇、引いては収益につながる。データを消費しているのは動画だ。
KDDIの高橋社長は「5Gにはキラーアプリがないとおっしゃる人もいるが、絶対そんなことはない。そのアプリ・コンテンツは明らかに動画系。動画配信だけでなく、若い人は当然TikTokなども使う。これは明らかなキラーコンテンツ」と語っている。以前、ドコモの井伊社長も、年配の人がYouTubeを見てたくさんのデータを使うようになっているという趣旨のコメントをしていた。いつでもどこでもパケットがスムースに流れ、動画を快適に見られる・アップロードできる環境を提供することが、さらに重要になっている。
楽天モバイルも5Gエリアの拡充を急ぐ必要がある。楽天モバイルは他3社よりもARPUが低く、収益を上げるには契約者数を増やすとともにARPUを上げることも必須だからだ。三木谷氏は以下のように語って楽天モバイルの完全仮想化ネットワークの強さをアピールしていた。
「(現在の4G基地局の多くは)5Gを考えた上でロケーションを決めている。(5G基地局用の)新しい設置場所の獲得はほぼ必要ない。周波数帯が違うので基地局のアンテナを付けなくてはいけないが、4G基地局に5Gのアンテナを付けてソフトウェアをアップグレードするだけで4Gから5Gにアップデートできる。追加投資のコスト構造が他社と圧倒的に違う。これが仮想化技術のミソ」
また、楽天モバイルの共同CEOで、楽天モバイルのネットワーク構築やグローバル展開を担っている楽天シンフォニーのタレック・アミンCEOは、ネットワークが自律的でネットワーク運用に必要な人員が非常に少なく済むことなどの利点も挙げ、「とても自信がある」と語っていた。お手並み拝見といったところだ。
新ローミング契約による新たなRakuten最強プランはユーザーにとって大きな魅力。パートナー回線「エリア」は広がっても、そこで通信速度が上がるとは限らないが、無制限のデータ通信を求める人には、月額3272円で使い放題の楽天モバイルが最初の選択肢になるだろう。
楽天グループ内のサイトから簡単にモバイルの契約ができ、eSIMならプロファイルのダウンロードまで一気に済んでしまう「ワンストップ開通」の提供もあいまって、契約者数の増加も見込める。3000億円規模の資金調達を実施し、モバイル事業の財務の健全化を図っているが、好業績で健全化を促進できるか、今後も目が離せない状態が続きそうだ。
筆者プロフィール:房野麻子
大学卒業後、新卒で某百貨店に就職。その後、出版社に転職。男性向けモノ情報誌、携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年にフリーランスライターとして独立。モバイル業界を中心に取材し、業界動向を追っている。
関連記事
- 楽天モバイルがKDDIローミング強化 三木谷会長が語ったその狙い
楽天モバイルがKDDIとのローミングを強化し、新プラン「Rakuten最強プラン」を打ち出した。徐々にローミング契約を終了し、自社回線への移行を進めてきた楽天に、何が起きたのか。5月12日に行われた楽天グループの決算会見で、三木谷浩史会長が話した狙いをまとめた。 - 楽天モバイル、au回線のローミングエリア拡大 縮小計画から一転、財務負担抑制へ
楽天モバイルがauローミングエリアを拡大。「財務負担を限定しつつ、迅速・効率的に接続性の向上を図る」 - 「白ロム割引」規制で「1円スマホ」消滅か? 公取委「独占禁止法上問題となるおそれ」も
総務省の電気通信市場検証会議下にある競争ルール検証WGが開催中で、回線契約に依存しない「白ロム割引」が過剰な割引額になっているため、規制が求められている。 - KDDI、ソフトバンクもサービス開始 そもそも「デュアルSIM」って何だ?
スマートフォンの「デュアルSIM」機能を利用すると、片方に通信障害が起きた場合に、もう片方の通信会社の回線に切り替えて、音声通話やデータ通信を利用できる。改めてデュアルSIMとは何かを整理し、利用時の注意点、課題などをまとめてみたい。 - 三木谷氏もサプライズ登場の「MWC」 最大のテーマは「O-RAN」、キラーを模索中の5G
2月27日から3月2日までの4日間、スペイン・バルセロナで世界最大のモバイル展示会「MWC Barcelona 2023」が開催された。久しぶりの完全リアル開催となったMWCの見どころをお伝えする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.