楽天のKDDIローミング強化で4Gは“非競争領域”に 各社の競争の舞台は5Gへ:房野麻子「モバイル新時代」(2/3 ページ)
「最強プラン」では、auローミングで提供されているパートナー回線エリアでの高速データ容量5GB制限を撤廃し、自社回線エリアと同様、高速通信を制限なく利用できることが最大の特徴だ。これは、5Gに注力したい両社の思惑が一致した結果だともいえる。
しかし、すでに発表している月間150億円程度の設備費用削減目標は変わらず、三木谷氏は「新ローミング契約は財務の安定性に貢献する構造」と説明している。今回の新ローミング契約では負担が軽減されているようだ。
一方、KDDIにとって楽天のローミング料金は、携帯電話料金値下げで悪化した収益を一部支えるものとなっていた。とはいえ楽天は自社エリアの拡大によってローミングを停止していっており、KDDIの24年3月期の連結業績ではローミング収入の減少により約600億円のマイナスを予想していた。それが新ローミング契約によってマイナスが緩やかになる。また、KDDI社長の高橋誠氏(高ははしごだか)は「4Gネットワークの効率性が高まるとともに、5Gへの投資に傾注できる」とKDDIにとってのメリットを語っている。新ローミング契約はWin-Winなものなのだ。
ちなみに、KDDIと楽天モバイルの新ローミング契約について、NTTドコモの井伊社長は「冷静に受け止めている」と述べていた。
5Gに注力する狙い
5G時代になって、携帯電話事業の競争領域がエリアやネットワーク品質といった通信の領域から、金融や決済サービス、ソリューションなど法人向け事業といった非通信領域に変わってきている。また他業界と同様、「競争と協調」や「共創」といったワードもよく耳にする。
例えば、5Gネットワークの地方展開を推進するためにKDDIとソフトバンクによって設立された「5G JAPAN」や、インフラシェアリングビジネスを展開する「JTOWER」に、ドコモが基地局設置用の鉄塔を売却するなど、基地局設備の共有が始まっている。今回の新ローミング契約もそういった流れ、協調を感じさせる一件だ。
携帯電話業界の中で、楽天モバイルは別としても、4Gエリアで各社の違いを感じることは、ほぼなくなった。ならば、高橋社長も述べていたように、今後主力になる5Gに注力したいという考えになるだろう。
競争領域が非通信に移ってきているとはいえ、通信料収入が今後も携帯電話事業者の収益の多くを占めることは間違いない。各社とも携帯電話料金の値下げで下がってしまったARPUの上昇を図っており、決算資料からその兆しも見えている。
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