いまさら聞けない「ガバメントクラウド」(政府クラウド) さくらインターネット参入が注目されるワケ(2/2 ページ)
ガバメントクラウドの基礎知識を整理。さくらインターネットの採択がもたらす影響を考察する。
なぜこれまで国産サービスがなかったのか
ガバメントクラウドは、これまで外資系のサービスしか選ばれていなかった点が批判の的になることも多かった。「海外企業へ依存する」「国産企業を育てる気がない」などの声があり、さくらインターネットの田中邦裕社長も「デジタル貿易赤字の拡大」として、外資サービスへの支払いの膨らみを指摘している。
そもそも、これまで国産サービスが採用されなかった背景には、技術要件の厳しさがあった。21年に実施したITmedia NEWSの取材に対し、田中社長は「コンピューティングリソース、セキュリティ、マネージドサービスの数など、さまざまな面で海外IaaSでないと達成できないもの」と答えていた。
風向きが変わったのは23年8月。デジタル庁が、技術要件を一部緩和する方針を発表。それまでは1社で基準を満たすことを求めていたが、他社製のものなど複数サービスを組み合わせることで要件を満たす形態を認めるとした。国産サービスに追い風が吹いたわけだ。
報道各社によれば、今回のガバメントクラウドの公募にはIIJとソフトバンクも応募していたといい、要件の緩和が影響したとみられる。さくらインターネットも、米Microsoft製品を活用し、要件を満たす方針だ。
「初の国産」で差した光明と、現実の暗雲
さくらの採択により、先に述べた海外依存への脱却といった問題には光明が差したといえるだろう。国産サービスの採択によるメリットは他にも考えられる。昨今の円安により、ドル払いのクラウドサービスはどこも実質値上げになっている。円で払える国産クラウドは、コスト最適化を目指すに当たってありがたい存在になるかもしれない。
一方、ガバメントクラウドならびに自治体システム標準化の中で、さくらがどれだけ活躍できるのかという疑問は残る。例えば自治体システム標準化においては、移行先サービスの選定に、SIerの意向がからむ点がネックになるかもしれない。
システム標準化に当たり、自治体はSIerと協力してシステムの移行を進めることになる。しかしクラウドの知見を持つ自治体は少ない。移行先は、SIerが知見を持つサービスに……と判断するケースも多々あるだろう。
そのとき、圧倒的なシェアを誇り、技術資料やユーザーコミュニティーが充実したAWSなどのサービスに、さくらのクラウドがどれだけ立ち向かえるかは、なんともいえないところだ。田中社長は21年時点で「局所的な利用を見込む」としていたので、先述したコスト面などを武器に、部分的な導入を狙う戦い方はあり得るかもしれないが。
そもそも自治体システム標準化自体、スケジュールやコストの懸念が大きい。スケジュールには複数の自治体から見直しの要望が出ている。コストは、ガバメントクラウドの利用料は自治体が負担する点がネックだ。移行費こそ総務省から全額補助の方針が出ているものの、運用費については言及がない。自治体の負担がどうなっていくのかは不透明だ。
コスト面だけで見れば、さくらにとってチャンスといえる局面かもしれない。一方で、システム標準化が“炎上”状態になれば、まわりまわってイメージダウンにつながる可能性もある。ガバメントクラウドの採択はあくまでスタート地点。これから、外資大手がひしめく市場でどう戦っていくか──こそ、「初の国産ガバメントクラウド」としての腕の見せどころだろう。
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