「研究費11億円以上の不正使用」「論文4本の捏造」――京大の霊長類研究所が“解体”されたワケ 元教授らが論文発表:Innovative Tech(2/2 ページ)
京都大学霊長類研究所(霊長研)に所属していた研究者らは、国内有数の研究拠点であった霊長研が2021年度末に事実上解体されるに至った経緯を、裁判記録や公的資料を精査して分析した報告書を発表した。
同時期に4本の論文で捏造発覚
ほぼ同じ時期、霊長研のF元教授による4つの論文が、実験実施の事実自体が認められず、「捏造」と認定された。捏造が発覚したのは、実験に際して霊長研の倫理委員会の承認を得ていなかったことがきっかけであった。
F元教授は、不正調査委員会の請求に対して調査への協力を行わず、研究資料データなどの資料提示を一切行わなかった。また、研究データの保存・開示を行わず、研究室にも調査対象の論文に関連する資料は残されていなかった。調査委員会の捏造認定を受けて、京都大学はその時点ですでに定年退職していたF教授の退職金の支給を差し止めた。
F元教授がなぜ論文捏造に及んだのかは不明である。論文執筆の時点では、F元教授は定年を間近に控えており、すでに多くの研究業績によって国内外の研究者たちから高い評価を得ていたため、このような大々的な捏造をおこなってまで数編の論文業績をあげる必要性は低いと思われる。
日本の研究組織の課題は“トップの経営能力”か
霊長研の解体は、日本の霊長類学の発展に大きな打撃を与えるものだが、その背景には複合的な要因があったことがうかがえる。
その一つに、文部科学省の「選択と集中」政策により、一部の研究者に巨額の研究費が投入されていた点である。A教授らのグループは、霊長類学としては大型予算を獲得していたが、その使途を巡って問題を引き起こした。
10〜12年度の獲得総額14億円は、霊長研全体の競争的資金の6割超、運営費交付金を含む総予算の35%に相当する。巨額の公的資金は研究の発展に寄与する一方、資金力に物を言わせた独善的なプロジェクト運営を招く危険性もはらんでいる。
また、研究組織の長が組織経営の能力に乏しい点も挙げられる。日本の研究組織では、組織経営の能力がなくても研究者代表が長になるのが現状。優れた研究者であっても、周囲から慕われた研究者であっても、経営の素人が多額の研究予算を管理運営しているのが実情なのである。
この状況を改善するには、研究面の卓越性だけでなく、責任者としての自覚と経営管理能力を兼ね備えたリーダーの育成が必要だと指摘している。しかし、現状では、研究組織の長が組織運営や経営についての訓練を受ける機会は少ない。改善策として、研究組織の長に対して組織運営の講習を義務付けることが論文では提案されている。
Source and Image Credits: 杉山幸丸,相見満,黒田末寿,佐倉統. 霊長類研究所解体の経緯を考える. DOI: https://doi.org/10.51094/jxiv.405
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