スマートフォンへの道を歩むWindows 8:BUILD(1/2 ページ)
Windows 8にはスマートフォンからの影響が強く見られるが、その先に何があるのか? Windows Phoneとの関係も含め、本田雅一氏が今後のWindowsを占う(最後に“To Go”の情報も)。
MicrosoftはWindowsの領域を、いずれはスマートフォン向けにまで広げようと考えているのか。
米カリフォルニア州アナハイムで開催されている、Microsoftのソフトウェア開発者向け会議「BUILD」では、スマートフォン用OSに求められる要素がWindowsへと取り込まれていることが明らかになった。タブレット型のWindows端末をよりよいものにするための対策だが、その徹底ぶりはさらにその先を見据えてのことなのかもしれない。
スマートフォン的な機能を取り込むWindows 8
Windows 8で導入されるMetroスタイルアプリケーションは「キーボードやマウスでの操作にも100%対応している」とMicrosoftが強調しているものの、スマートフォンやタブレットのタッチユーザーインタフェースを強く意識していることは明らかだ。
しかし、意識しているのはユーザーインタフェースだけではない。Windowsの動作やハードウェアを含む製品開発の手法にも、スマートフォン的なアプローチを取り入れている。
そのうちの1つとして、アプリケーションの状態に「サスペンド」モードが追加されたというのは既報の通りだ。Metroスタイルアプリケーションがサスペンドに入ると、メインプログラムは活動を停止し、電力を消費しなくなる。アプリケーションを終了することなく、“省電力制御の面では終了した場合と同じ状態になる”わけだ。
しかし、アプリケーションがサスペンドしてしまうと、新しいメールや情報の通知を受けることができなくなる。例えば、スタートスクリーンのタイル上に表示している情報(これらはLive Tileと言われるもので、ネット上の情報をリアルタイムに反映して表示する)も、サスペンドすればライブ性を失うことになる。
3Gなど携帯電話網への接続機能を持つタブレット型端末を作っても、サスペンド中はネットワークからの情報が遮断されるのは当たり前……と考えがちだが、携帯電話やスマートフォンは違う。SMSやメール、そして音声通話の着信など、常に電源オンのまま通知を受けることが可能だ。
そこでWindows 8には、省電力モード中(サスペンド中)にも、ネットワークからの通知を受けることができるよう改良が加えられている。それどころか、PC本体がスタンバイモードに入っていたとしても通知を得ることができる。それがConnected Standby(コネクテッドスタンバイ)だ。
通知を受ける条件をネットワークインタフェースに登録
コネクテッドスタンバイとは、その名の通り、ネットワークに接続したままでWindowsハードウェアをスタンバイ状態する機能だ。そのためにはネットワークインタフェースの協力が必要になるため、コネクテッドスタンバイに対応するPCは対応ネットワークインタフェースを内蔵しなければならない。
例えば、SMSなどの通知を即時受け取りたいといった場合、Metroスタイルアプリケーションは、Windows 8システムに対象となるサービスのサーバIPアドレスとメール受信通知を知るためのパケット受信パターンを登録する。するとWindows 8はそのパターンを、ネットワークインタフェースへと知らせる。
PCがスタンバイモードに入ると、ネットワークインタフェースはネットワークへの接続を保ちながら省電力動作し、定期的にアクセスパターンがマッチするかを監視し続ける。PC本体のプログラムは動作しないため、そもそも通知を受けるためにPCがスタンバイから復帰する必要はない。
そして登録された通知パターンに合致した場合に、はじめてWindowsが登録対象のアプリケーションを呼び出して処理を決定。必要な処理を行った後は、速やかにスタンバイへと戻る。これで、ネットワークサービス側から省電力モード中のPCに対して、通知を“プッシュ”可能にした上で、省電力性も確保した。
この機能は3Gに対してだけでなく、無線LANや有線LANでも利用できる。例えば無線LANに接続し続けながら、省電力モードに入るといった場合も想定している。
しかし通常、LANの中にはブロードキャストパケットが流れ続けており、ネットワークに接続された機器はブロードキャストパケットの内容をいちいち検査しなければ、コネクテッドスタンバイ中に必要な応答ができない。応答をしなければ、そもそも“コネクテッドじゃない”となるため、ブロードキャストパケットを監視しなければならないが、そのための電力消費はバカにできない。
そこで、ネットワークインタフェース側にブロードキャストパケットのフィルタ機能を設け、コネクテッドスタンバイ中に拾わなければならないパケットは、それを扱うアプリケーション側がWindowsに登録する、という方法を用いる。
“OSのみの提供”にとどまらなくなるタブレット向けWindows 8のライセンス
コネクテッドスタンバイ時の省電力化に関しては、さらに細かくスマートフォンと同様の手法による省電力テクニックが使われている。例えば通知を受けるため、定期的にネットワークインタフェースが起きることになるが、このとき無線通信後、通知がないと分かった段階で即座に無線通信を一時遮断する、などの工夫をしている。
これらで重要なことは、ハードウェアとソフトウェアを綿密にすり合わせることだ。従来のWindowsは、どんなハードウェアでも動作するよう、汎用性を重視して開発してきた。OPK(OEM Pre-installation Kit)と呼ばれるツールを用い、PCメーカーはWindowsを自社PC向けに簡単にカスタマイズし、プリインストール版のインストールイメージを自分たちだけの手で作成できる。
しかし、汎用性が高い半面、チューニングのレベルを一定以上にすることは困難だ。そこでMicrosoftは、タブレット型のWindows 8のみ、ノート型やデスクトップ型とは異なるライセンス形態を採る。これは粗製乱造を防ぐためにメーカーを絞り込むというのではなく、薄型・軽量でなおかつ省電力なコネクテッドスタンバイ対応のタブレット型Windowsを実現するには、Microsoft、システムチップベンダー、PCベンダーが協力しなければならず、必然的にコミュニケーションできる範囲は決まってくるためだ。
Windows 8対応タブレット向けにシステムチップを提供するとみられるのは、Intel、AMD、TI、NVIDIA、Qualcommの5社。それぞれのシステムチップベンダーには、共同開発できるメーカー数に限りがあるため、最大で10社程度しかWindows 8対応タブレットを作るメーカーはないはずだ。AMDを使って開発しようとしているメーカー名は現時点では聞こえてこないため、8社程度に限られると推察される。
基調講演ではOSの起動が8秒で終わる、といったデモが行われたが、こうした高速起動が行えるのも、タイトなハードウェアとソフトウェアの統合があるからだ。
このような開発方法は、Android採用携帯電話など、汎用OSと組み込みOSの両側面を持つシステムで採用されている。Microsoftは、いよいよWinodwsを携帯電話へと進出させようとしているのだろうか。
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