「新しいiPad」で混乱して困惑する人々:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
誰もが驚いた「新しいiPad」という名前。アップルがこの名称に込めた狙いとは? そして、最も困惑しているのは、ユーザーではなく意外な彼らだったりするという。
ネット対応で変化する型番の命名ルール
実は、この10年で命名ルールが変わりつつある。その原因はWebページで展開するオンラインショップの増加だ。スラッシュ(/)など、URLとして使えない文字が、型番で使わないようになっている。製品ページのURLに型番がそのまま使えれば検索性も上がるわけなので、URLに使えない文字列はなるべく型番に使わないというのは、自然な流れだろう。
また、見た目にまぎらわしい型番をつけるケースも少なくなった。数字の0(ゼロ)とアルファベットのO(オー)、アルファベット小文字のl(エル)と大文字のI(アイ)、そして数字の1(いち)など、視覚的に判別が難しい文字は、各社の型番一覧を見ていても明らかに減っている。
こうした“紛らわしい文字”を使った型番は、自社の社員なら区別がついても、販売店のスタッフが識別するのは難しく、余計な手間と思われてしまうリスクもある。カラーバリエーションのOR(オレンジの意)をゼロアールだと読み間違えて、何度発注しても製品が届かないためクレームになるという話は、膨大な数のバリエーションが存在するアクセサリ類を中心に、業界にいくらでも転がっている。
同じようなケースに、ハイフンがらみのトラブルというのもよくあった。例えば「AAA-001」と「AA-A001」というまったく別の製品を、ハイフンが使えないPOSシステムに登録するとどちらも「AAA001」になってしまい、登録時にエラーが出るというものだ。1990年代半ば、PC周辺機器業界にPOSが導入され始めた当初は、こうしたミスが多発していた。最近はさすがにメーカー側が注意するようになったのか、こうしたトラブルも聞かなくなってきた。
今後起こりうると考えられるのが、検索エンジンでひっかかりやすいようにユニークな型番にしておこうとするパターンだ。「DM-10」ないし「DM10」という型番は、キングジムのポメラでもあり、オリンパスのボイスレコーダでもあり、オーム電機のダミーカメラでもあり、さらにはハーマンのプリアンプにも存在する。別の業界に目を向けると物置だったり電子ドラムセットだったりと、あっちもこっちもDM-10だらけだったりする。
これらは同じ型番といえど、メーカーやカテゴリが異なるので量販店サイドで混乱することはほとんどないが、あらゆるカテゴリの製品がフラットに並ぶオンラインショップの世界では、型番で検索してもなかなかヒットしないことになる。このような事情を考慮し、ブランドネームやペットネーム、そして型番をうまくコントロールしてユーザーに見つけてもらいやすくするのが、企画担当者に求めら得る重要なスキルの1つとなっていくのかもしれない。
「新しいiPad」に振り回されるサードパーティメーカー
「新しいiPad」(The New iPad)という名称は、ユーザーに混乱と困惑をもたらしているが、その実務的な影響は微々たるもので、最も深刻に混乱して困惑しているのは、サードパーティのアクセサリメーカーだろう。
iPadアクセサリを販売しているサードパーティメーカーにとってなにより重要なのは、そのアクセサリがどの製品に対応しているのかを見分けられるよう、分かりやすい型番をつけることだ。これが見分けにくいと、製品を売る量販店の側も混乱するし、ユーザーが勘違いして購入してクレームになることもありえるからだ。
iPadであれば本体の厚みが世代によってどれも違うので、保護ケースはそれぞれ専用のモデルを用意する。この場合「AAA-ipad-01」とか「BBB-ipad2-bk」と、対応製品の型番(ここでは“ipad”と“ipad2”)をアクセサリの型番に仕込んでおけば、これは初代iPadに対応するモデルなんだなとか、iPad2に適合するんだなというのは、ユーザーにも分かってもらえる。ユーザーに対しては、型番以外にもパッケージなどに対応情報を大きく明記する必要があるものの、少なくとも量販店のスタッフやメーカーの社員には、接客時や商談時、そして将来製品が終息して撤去する場合の手がかりになればいい。
ところが、今回のようにすべての世代が「iPad」という名前でまとめられてしまうと、こうした判別が不可能になる。で、どうしているかというと、各サードパーティメーカーが独自に「新しいiPad」に相当するコードネームを用意し、型番に仕込ませているというのが実情だ。
すでに各社が発表済みの「新しいiPad」用のアクセサリを見ていくと、エレコムとバッファローコクヨサプライは、いずれも「iPad(2012年発売モデル)」という表現で、型番に「12」というコードを含めているし、サンワサプライは「iPad(第3世代)」という表現で型番に「IPAD3」というコードを含めている。レイ・アウトはサイト上での表現は「iPad (2012年春発表モデル)」となっているが、型番は「3」というコードになっている。
各サードパーティメーカーの苦労が忍ばれるこれら型番や、そしてユーザーの「個体としての初代iPadとどう区別するのか」「新しいiPadが古くなったら呼び名はどうするのか」といった指摘を見ていると、ブランドネームやペットネーム、そして型番のそれぞれに求めるものは、それを用いる人の立場によってまるで違うことが分かる。「新しいiPad」の名称にまつわる問題は、こうした業界事情を知る上での貴重なケーススタディとなりそうだ。
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