インタビュー

3Dプリンタの普及と3DCGの未来――「Shade 3D」開発者インタビュー想像をカタチに

3DCG作成ソフトで知られる「Shade」が3Dプリンタ用フォーマットに対応し、画面の中の3DCGを直接“現実世界”へ出力できるようになった。開発者に聞く。

Shadeで作ったキャラクターを3Dプリンタで出力

Shade開発グループの菅原慎也氏

 イーフロンティアが開発する国産3DCG作成ソフト「Shade」は、最新版のver.14で「Shade 3D」とシリーズ名を新たにしている。最も大きなトピックは、一般的な3Dプリンタの出力に対応するSTLフォーマットをサポートしたことだ。Shade開発グループの菅原慎也氏に話を聞いた。

―― まず最初に、今回から製品名に「3D」がつきました。これはどういった意図があるのでしょうか。

菅原 まだまだShadeという製品の認知が浸透していないので、店頭でも一目で3Dのソフトだと分かるようにしています。そのため、前回から引き続き、パッケージデザインも折り鶴を採用しました。

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―― そのShade 3D 14ですが、3Dプリンタ向けのフォーマットであるSTLに対応しましたね。

菅原 もともと3Dプリンタは、3D CADの分野で利用されており、3DCG作成ソフトでは一般的ではありません。特に1万円台から購入できる個人向けのソフトではめずらしいでしょう。ただ、昨今ではコンシューマー向けの低価格な3Dプリンタが複数登場し、市場の注目度は高まっています。そこで『対応するなら今だろう』と、まずはSTLでの出力を新機能として加えました。

 これまでShadeから3Dプリンタで出力する場合、例えばサービス業者によってはOBJファイルをコンバートして対応していましたが、Shade 3D 14ではユーザー自身がそのまま直接出力できます。一昔前のレーザープリンタなどを考えれば、一般向けの3Dプリンタも同様に高性能化、低価格化が進んで、そう遠くない未来に誰もが手に入る時代になるでしょう。そのとき、個人でShadeの形状をそのまま出力できるのは魅力的です。

低価格な3Dプリンタが各社から登場している。写真はMakerbot製「MakerBot Repliciator 2」を使ったデモ

―― Shadeさえ使えれば、ということですね。Shadeは誰もが簡単に使いこなせるソフトですか?

菅原 もちろん、程度によります(笑)。3Dの知識を持たないまったくの初心者であれば、それなりに習熟する必要はあります。3Dの経験があれば1週間ほどである程度の形状を作ることはできるでしょう。いずれにせよ、Shadeは数十万円、数百万円するソフトでもなければ、設計CADのような業務用途でもなく、誰もが購入して利用できるソフトです。

―― 現状の低価格3Dプリンタでは精度の問題もありますね。

菅原 確かに、量産のための金型を前提するようなプロダクトデザインでは、その工程の1つとして、非常に精度の高い1000万円クラスの3Dプリンタ設備でプロトタイプを作ったりしますが、これは個人としては現実的な話ではありません。

 一方、個人向けの低価格な3Dプリンタは、小ロットのオリジナルフィギュアを作る、あるいは、壊れたアイテムを部品単位で修復する、といった分野では有用だと思います。現在の精度では出力後の仕上げ加工は必要ですが、これまでiModelaのようなNC工作機械(Numerically Controlled Machine Tools)で切削加工をしていた層とは非常に相性がいいでしょう。

 実際、iModelaユーザーの約7割近くの人がShadeを利用しているということで、フィギュアの原型を作るといったホビー方面では、手軽に3D形状を製作できる3Dプリンタが広がる土壌がすでにできています。もちろん、用途が違うので3DプリンタによってNC工作がなくなるということはないとは思いますが、新しいアプローチになるはずです。

精度の高い産業用3Dプリンタなら、継ぎ目がないモンキーレンチがそのままの形で出力できてしまう。ウォームギアがスムーズに回り、きちんとレンチとして機能する(写真=左)。Shadeアンロックデータ集の「Hanako」を産業用プリンタで出力したサンプル(写真=右)
データ集に収録されたHanakoは実は髪の毛が3Dになっていないため、3Dプリンタ出力用に急きょ髪の毛を追加している。このため作りが少し甘い
3DプリンタとShadeを組み合わせれば、好きなポーズや衣装のオリジナルフィギュアを簡単に製作できる

今後は形状データ販売サイトが重要になる

―― 頭の中にしかなかったものを、Shadeが形にして、3Dプリンタがリアルなモノとして取り出してくれる、しかもそれが現実的に買える値段のソフトとハードで、と考えるとワクワクしますね。

菅原 例えば、子どもが学校の授業で自分の表現したいモノを作るときに、鉛筆や絵の具と同じような感覚で、3DCGを使うというのも面白そうです。これまでは3DCGといっても、実際は平面的なディスプレイの中の疑似3Dだったわけですが、それが簡単に本当の3Dオブジェクトになる。こうした体験は3Dデザイナーに限らず誰にとっても面白いものです。

 ここにあるメガネのサンプルは、実際に存在するレンズの曲面に合わせて、Shadeのラインフィットという機能を使って形状を作っているため、現実のレンズをはめ込めるフレームになっています。そしてデザインの作業自体は半日もかかっていません。出力には産業用の3Dプリンタを使いましたが、将来的にはこうしたことが個人でもできるようになるのです。

レンズをはめれば実際に使えるメガネフレームをShadeで製作

―― とはいっても、3DCGにまったくなじみのない私のような人間には、やはりハードルが高い印象はあります。

菅原 すでに3DCGクリエイターは何十万人もいます。ですので、将来的には、3DCGの知識はないけれども家に3Dプリンタがある一般ユーザーと、3DCGクリエイターをマッチングさせるようなコミュニティサービスの需要が増えるかもしれません。一方に作る人たちがいて、もう一方にはモノを欲しがる人がいる。3Dデータさえあれば、手元のプリンタが形にしてくれるわけです。

 これまでにも3DCG用の形状データ販売サイトはありますが、そこで売られている人体やそれに付随する衣装、アクセサリーのセットなどは、いわば仮想の3D空間で完結しているものです。このため、購入する層にもそれほど広がりはありません。

 しかし、これからは3Dプリンタによって、購入したデータを本当の意味での3Dとして手に入れることができます。現時点では出力できる素材や解像度などの制約はありますが、こうした面はいずれ時間が解決するでしょう。そのとき、形状データを販売するサイトは大きな意味を持つようになると思います。弊社でもまだ構想の段階ですが、社名に「フロンティア」の名前がある通り、将来を見据えたこうした取り組みは積極的に展開していく予定です。

 今後3Dプリンタが一般に普及していく時代に、Shade 3Dを通じて、3DCGを普遍的なものにしてきたいですね。

―― ありがとうございました。

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