店頭に現物を置かない「カード展示」は“諸刃の剣”か?:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
家電量販店では、製品の現物を展示せず、型番や価格が書かれた「カード」だけを並べている風景をよく見かける。このカードによる展示はさまざまなメリットがある一方、自らの首を締めかねない諸刃(もろは)の剣でもあるのだ。
買い占め対策にも有効な手段に
また、在庫数が分からないことを逆手に取って、まったく別の目的にも使える。それは買い占め対策だ。最近ではセール品以外についても、外国人を中心とする客によって店頭で在庫を根こそぎ買い占められる事例が起こっている。素人目に見れば、とにかく売れさえすれば相手が誰でも構わないように思えるが、もしこうした行為を許してしまうと、店頭から在庫が一掃されてしまいかねない。
そうなると、普段から来店してくれている固定客が買おうとした際に在庫がなく、みすみす他店に客を奪われる羽目になりかねない。そうなると次回以降の売上にも悪影響を与えることになるわけで、店側にとって是が非でも避けなくてはいけない。
もしこうした買い占め客が来店した場合、店頭に在庫の現物が山積みになっており、それを手に持ってレジまで来られると、断る口実が見つけにくい。しかしカード展示であれば、バックヤードにもう在庫がないことにして、買い占めを防ぐことが可能になる。客から見て、バックヤードに本当に在庫があるかどうかは分からないからだ。
カード展示によって首が締まるのは店舗自身?
そもそもカード展示が誕生したのは、PCラックやチェアなどの大型製品であれば「大きすぎて並べられないため」、USBメモリやメモリカードであれば「小さすぎて万引きされやすいため」というのがきっかけだが、その真ん中、中間サイズの製品でもカード展示が近年増えつつあるのは、今回見てきたような事情が大きい。
もっともこのことが、現物を見てサイズや質感を確認したいというユーザにとって、リアル店舗の魅力をなくす結果につながっているのは紛れもない事実である。売れ筋の製品だけはきちんと展示をして、それ以外はカード展示という二段構えは客から見て分かりにくく、「あの店はどれもカード展示ばかりで現物を置いていない」と見なされてしまいがちだからだ。
最近ではECサイトに対する店舗のショールーム化のほうがトピックとして取り上げられることが多く、こうした問題はあまり公になることはないが、中小規模の家電量販店にとっては、大型店と戦うために工夫をすればするほど自分たちの首をも締めかねない、厳しい時代が到来していると言えそうだ。
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