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“パソコンの斜陽化”でMicrosoftがパートナーに打ち出すメッセージとはCOMPUTEX TAIPEI 2016(2/2 ページ)

PC斜陽化が叫ばれるなか、Windows 10 Mobileの市場はそれほど拡大しておらず、Microsoftの市場支配力は以前よりも弱まっていると言われる。MicrosoftのCOMPUTEX基調講演から見えてきたのは……

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Windows Holographicのサードパーティへの開放

 今回Myerson氏がCOMPUTEXのステージへとやってきた目的の2つ目の理由は、新発表にあると考えられる。ステージ上には「Microsoft HoloLens」開発で知られる米MicrosoftテクニカルフェローのAlex Kipman氏が登場し、「Windows Holographic」のサードパーティへの開放と、同社がこの技術で目指すエコシステムについての説明を行った。

米MicrosoftテクニカルフェローでHoloLens開発で知られるAlex Kipman氏
今回最大の発表となる「Windows Holographic」のサードパーティへの環境開放。Microsoft HoloLensの世界を構成するAR HMDやVR HMDの今後のサードパーティ製品登場が望まれる
現在発表されているHoloLensアプリケーション開発や利用事例でのパートナー群。産業や物流、研究開発分野が中心

 HoloLensについてMicrosoftは、「Mixed Reality」(複合現実)を実現する仕組みだと説明している。HoloLensではヘッドギア型のデバイスを頭部に装着すると、シースルーのディスプレイの上にコンピュータで描画されたキャラクターや情報が表示され、それを手のハンドジェスチャーや音声コマンドで操作可能な仕組みになっている。

 また、HoloLensではデバイスの移動量検知だけでなく、周辺の風景の凹凸、オブジェクトの種類を認識する機能があり、投影したオブジェクトに人間が回り込んで反対側からのぞき込んだり、あるいは移動を指示したオブジェクトが周辺の障害物を避けて移動したりと、現実と仮想空間が融合したような世界が展開される。

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 一般に、このような仕掛けは「拡張現実」(Augmented Reality)のような表現がなされているが、Microsoftではより進んだ概念として「Physical Reality」(物理現実)と「Virtual Reality」(仮想現実)の中間にある存在としての「Mixed Reality」(複合現実)を主張しており、今回のCOMPUTEXではその説明の意味を改めて理解できた。

Microsoftが提唱する「Mixed Reality」(複合現実)の位置付けを説明。「Physical Reality」(物理現実)と「Virtual Reality」(仮想現実)の中間的存在であり、完全な仮想世界ではない点に特徴がある

 壇上にはHoloLensを装着した女性と、VR HMDデバイスとして知られる「HTC Vive」を装着した男性が登場し、“Windows Holographic”の世界で展開されるバイクのカスタマイズをハンドジェスチャーで交互に行う様子が紹介されている。

 従来でも複数のHoloLens装着者が同時に1つの作業をこなすことは可能だったが、今回は「Virtual Reality」(仮想現実)をユーザーに提供するシースルー型ではないデバイスを装着した人物が混ざって作業を行っている。つまり、すでに市場にリリースされているVR HMDも含めてHoloLensの世界も体験できるというのが「Windows Holographic」というわけだ。

Mixed Reality(複合現実)のデモストレーション。女性が身に付けているのはHoloLensだが、男性側のHMDは「HTC Vive」という点に注目
HoloLensとHTC Viveという異なる製品の間でWindows Holographicの世界が共有されて、共同作業が可能になっている
HoloLensはシースルー型のHMDで、かつPCの補助なしに単体で利用可能な点が特徴ということを示すスライド

 Microsoftでは、こうしたVR HMDを含めたサードパーティ製品でホログラフィックの世界を楽しめるよう、シェルやUI、Perception API、Xbox Liveサービスなどを利用できるようにしていくという。

 現在、HoloLensのアプリケーション開発にあたってはDevelopment Edlitionというハードウェアの開発キットとSDK、エミュレータが提供されているが、これをより幅広く体験できる環境を用意することになる。ここで制作されたアプリケーションは「UWP」(Universal Windows Platform)アプリとしてWindows Storeから利用できるため、さらに多くのユーザーが利用可能だ。パートナー企業の名前には現在、Intel、AMD、Qualcomm、HTC、Acer、ASUS、Dell、Falcon Northwest、HP、Lenovo、MSIなどが挙がっているほか、今後の正式提供開始までにさらに数が増える見込みだ。

Windows Holographicの現時点で発表されているパートナー一覧。今回の発表を経て多数の潜在的なパートナー企業が問い合わせを行っているとみられ、2017年ごろとみられる製品ローンチではさらに数が増えていると考えられる

 こうしたOEMからのWindows Holographic対応製品登場は2017年が見込まれているが、基調講演後の質疑応答でMyerson氏は実際の登場時期について「年単位はかからない」と説明しており、おそらく2017年後半くらいがターゲットになっていると考えている。

 また、「Windows Holographicのビジネスモデル」についての質問には「現時点でコメントできない」としている。これらWindows Holographic戦略についての詳細は、今年台湾で開催が予定されているWinHECで語られるということで、続報を待ちたい。

Windows Holographicに関するさらなる詳細は今年台湾で開催されるWinHECにて公開されるという

 なお、現在WinHECはハードウェアパートナー向けのクローズドなイベントとして開催が行われており、2016年4月には中国の深センで1回目が開催されている。おそらく台北での開催は2回目とみられる。

 “PCの斜陽化”が叫ばれるなか、Windows 10 Mobileの市場はそれほど拡大しておらず、Microsoftの市場支配力は以前よりも弱まっているといわれる。だが、OEMパートナーを通じて市場を盛り上げていく力が業界随一なのは変わらず、PCやスマートフォンといったフォームファクタにこだわらず、「Windows 10」をキーワードに同社のエコシステム全体を拡大させていくという意図が、今回のWindows Holographic開放を含む一連の発表から感じられた。

基調講演後、記者団との質疑応答に応じる3人のエグゼクティブ。左からNick Parker氏、Terry Myerson氏、Alex Kipman氏。過去に何度もCOMPUTEXでのMicrosoftの基調講演や質疑応答に参加してきたが、最も豪華な顔ぶれの年となった
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