連載

激化するオンライン vs. リアル店舗のはざまでMicrosoftが生き残るためには鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/3 ページ)

WindowsやMicrosoft関連の情報を日々追いかけている本連載。鈴木淳也氏がPC市場とMicrosoftの今とこれからを考える。

 毎年、年の瀬にMicrosoftとWindowsを振り返る本連載の恒例企画だが、2018年のPC業界はどうだったのだろうか。改めて2017年末に公開された記事を振り返ると、まず「2018年は世界的にPCの販売がプラス成長に転じる?」という見出しが躍っており、総論の「伝統的なPC時代の終わりとその次」の項で筆者の予想が行われている。

英Financial Timesの10月17日(英国時間)の報道によれば、2018年は久々にPCの販売がプラス成長に転じ、長かった暗黒時代を抜け出す兆候が見られるという。

Gartnerの調査報告にもあるように、2018年のPC業界は微増、2019年は停滞というサイクルを経て、2020年に市場は再び停滞あるいは縮小に向かうと筆者は考えている。理由は先項でも触れたが、PCは既に万人向けのデバイスではなくなりつつあり、安価に広くばらまく時代は終わりを迎えたからだ。

 実際、2018年はどうだったのだろうか。

 まだ2018年を通した年間調査報告は出ていないもが、すでに一部のデータからその傾向は判明している。例えば[米Gartnerが7月12日(米国時間)に発表した2018年第2四半期(4月~6月期)のPC出荷台数集計では、同四半期の世界でのPC出荷台数は6210万台で前年同期比1.4ポイントのアップ。

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 同社によれば、PC出荷が上向いたのは過去6年間の調査で初のケースだという。特に興味深いのが米国内でのPC出荷台数で、同四半期の結果が1451万台と前年同期比1.7ポイント上昇というのはやはり6年ぶりだという。


Microsoftが発表したSurfaceシリーズ。米国のPC出荷台数回復に貢献した?

 ここ最近の傾向として、先進国の落ち込みを途上国のPC出荷台数がカバーするという流れが強かったが、今回は米国が世界需要をリードしているという点で新しい。2017年のGartner予想で「Windows 10の本格展開にともなうPCのリプレイス需要」というものがあったが、実際に企業ベースでの需要増が数字になって表れた形だ。

 一方、Gartnerから10月10日に発表された第3四半期(7月~9月期)の最新報告では、世界のPC出荷台数は6721万台で、前年同期比0.1ポイントの伸び。米国での結果は1477万台で前年比0.4ポイントのマイナスと、縮小・停滞傾向が依然としてみられる。

 おそらく、PC市場縮小は既定路線であり、実際に企業を中心としたリプレイス需要はあるものの、市場全体を大きく引っ張る要因にはならないと予想する。その意味では、“伝統的”なPC市場は予想よりも早く縮小・停滞するのではないかとも考えられる。

PC市場が縮小すると何が起きるのか?

 最初に、顕著な例として見られるようになるのが「売り場の縮小」だろう。小売店では貴重なスペースに商品を並べて少しでも売上を上げようとする。そのため、定期的に売れ筋商品とそうでない商品の入れ替えが発生する。

 小売店舗における商品の陳列は、売れ筋商品を見極めるバロメーターになる。米国では家電量販店の“最大手”として「Best Buy」の存在が知られているが、過去10年以上にわたって店舗の変革を見てきた方であれば、トレンドの波に合わせて店頭に並べる商品や業態を少しずつ変え、同業他社が次々と潰れていく中でしぶとく生き残っている。

 例えば、筆者が2002年から住んでいた米サンフランシスコではBest Buyの2店舗に加え、Circuit Cityが2店舗、CompUSAが1店舗、それにRadioShackが把握できないレベルで数多くの店舗を構えていた。

 だが現在、同市内で生き残っているのはBest Buyの2店舗だけだ。そのBest Buyも、当時はコンピューターや周辺機器、AV機器、そして膨大な映像や音楽ソフトの販売が中心だった。このソフト目当てにBest Buyに通っていた人もいるだろう。

 しかし、今ではそのソフトコーナーも消滅し、PCや携帯、AVメーカー各社にスペースを貸し与えて展示を行う単なるショウルームとなっている。このBest Buyに小売業界未経験のCEOとして2012年に就任したユベール・ジョリー(Hubert Joly)氏へのインタビューを行ったCNNは、その記事中で同社のことを「the last man standing(最後に残った男)」と表現しているが、なるほどとうなずく部分が多い。

 Best Buyでは白物家電や玩具も扱っているが、Searsのようなモール一体型のデパートや玩具量販店のToysrusといったライバルが次々と事業を縮小し、倒産へと追い込まれつつあるなか、残存者利益を享受している。


ライバル企業が撤退していく中で店舗営業を継続している「Best Buy」

 ジョリー氏が同社CEOに就任した2012年当時、Best BuyはAmazon.comなどとの競争激化の中で苦戦を強いられていた。Best Buyをショウルームとして見学し、実際の注文はオンライン通販のAmazon.comなどで購入するというものだ。

 価格比較サイトやサービスが発達していたのも後押しとなり、家電量販店として薄利多売で商品を売るだけの体制では、ジリ貧になるのは目に見えていたからだ。同氏が推し進めたのは、ショウルームからさらに踏み込んだ「店舗内店舗」の仕組みで、例えばAppleやGoogle、MicrosoftにSamsungと、大手の出張店舗を店舗内に設け、集客と売上の両者を追いかけるというスタイルだ。

 一方で、2009年から始めていた携帯電話専門の小売店舗「Best Buy Mobile」は徐々にその規模を縮小し、最終的に2018年に全250店舗を閉鎖している。現在でも店舗内に携帯電話の扱いはあるが、展示コーナーの一角でしかない。また、2018年8月には高齢者向けの緊急医療サービスを提供するGreatCallを買収し、ヘルスケア事業に参入している。今後はPCのサポートから老後の医療サポートまでカバーしていこうというのだ。

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