「モノ」を売る場所から「体験」と「ソリューション」の場に変化するMicrosoft Store:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」
以前からうわさに上っている、Microsoftの欧州初となるフラッグシップストアがロンドンのオックスフォードサーカスにオープンする。一方で店舗はモノを売る場所から、体験とソリューションを提供する場所に変わりつつある。
Microsoftは5月30日(現地時間)、同社が運営する「Microsoft Store」の英ロンドン1号店を7月11日にオックスフォードサーカスに面した場所にオープンすることを予告した。
Microsoft Storeロンドン店がオープン、その一方で既存店は……
Microsoft Storeは現在、米国、プエルトリコ、カナダ、オーストラリアの4カ国に展開されているが、今回のオックスフォードサーカス店は英国初の店舗であると同時に、欧州初の同社公式ストアとなる。実質的な欧州におけるフラッグシップ店舗の扱いとなるが、以前にもレポートしたようにロンドン店舗の計画は過去5年ほど二転三転しており、今回のオックスフォードサーカス店も当初の予告から四半期ほど遅れてのオープンとなる。
ロンドンの2大目抜き通りで高級店舗が建ち並ぶリージェント通りと、オックスフォード通りの交差点にあたるオックスフォードサーカスは、米ニューヨークの5番街店舗と並ぶ同社の最新技術や製品、トレンドの発信基地となる。
ニューヨーク店舗でおなじみの巨大なビデオウォールやHoloLensを含む体験コーナー、セミナールームなども備え、これまで同地域でリテールパートナー頼みだった製品戦略をアピールする場として機能するはずだ。ニューヨークの店舗ではAzure Kinectの展示が新たに加えられており、コンシューマーのみならず、ビジネスパートナー各社向けの発信スペースでもあることを誇示している。
ロンドンでの新店舗の話題がある一方で、ニューヨークでは2店舗目となるフラッグシップ店舗の話題が出ている。2018年後半ごろから一部で話題になっていたが、同地域でファッションの流行発信基地として知られるSoHo地域のビルの敷地をリースする契約をMicrosoftが結んだとThe Real Dealが報じており、新店舗開業に向けて大きく前進したように思われる。場所は「300 Lafayette St」で、近くには米Amazon.comのリアル店舗「Amazon 4-star」がある。また、この周辺はニューヨーク大学(New York University)の敷地内であり、実際にこの店舗を通じてMicrosoftが何を発信していくのかは不明だが、そのあたりは追ってレポートしていきたい。
さて、新規開店の話題ばかりが続くが、逆に終わる店舗もある。Windows Centralによれば、2019年6月時点において全世界で80以上の“フル規格”のMicrosoft Storeが存在する一方、より小型のショッピングモールなどに存在する“キオスク型”店舗については撤退が理由で同社の店舗一覧からの削除が確認されたという。
同誌が同ページの過去のアーカイブを頼りに調べたところ、2017年時点で5店舗、2019年の同タイミングで17店舗の削除が確認できたという。これにより、例えばMicrosoftの本拠地であるシアトルのダウンタウン地区からは全てのMicrosoft Store店舗がなくなり、ベルビューまたはワシントン大学(University of Washington)敷地内の店舗のいずれかのみとなった(この他、レドモンドにあるMicrosoft本社内のビジターセンター内の店舗がある)。
これについて、Microsoftの公式見解として発表されているのが、議論の末に“specialty store”つまり今回でいうキオスク型店舗を全て閉店し、フル規格の店舗またはフラッグシップ店舗を通じて素晴らしい体験を伝える方向でまとめることにしたのだという。
過去には、90日限定でWindows 8とSurface RT発売のアピールのためにタイムズスクエアにオープンしたポップアップ店舗や、コロンバスサークルのタイムワーナーセンターにオープンし2017年に閉店したキオスク型店舗が存在したが、それぞれその役割を終えて消滅している。
2019年春には、やはりAmazon.comが全米のモールに設置された87のキオスク型ポップアップ店舗の閉店しており、ショッピングモールのキオスク型店舗を通じて商品を販売したり、商品の存在そのものをアピールしたりする時代というのは、IT系ガジェットの世界では終わりつつあるのかもしれない。
Amazonについては、買収したWhole Foods Marketを通じて製品アピールの道がある他、Microsoftは最終製品そのものよりも前述のように「ソリューション」や「体験」を重視する傾向を強めつつあり、ストアの性格やユーザーとの接し方そのものが変化しつつあるといえる。単体では赤字事業といわれるMicrosoft Storeだが、その役割はWindows 8が登場した2012年当時と今では大きく異なってきていると考えるのが妥当だろう。
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