WWDCに見る、Appleがプライバシー戦略で攻める理由:他社にも盗んでほしい(3/5 ページ)
WWDC20において、Appleがさまざまな新情報を公開したが、その根底には「安心・安全なのに便利」というユーザーのプライバシーに関する取り組みが流れている。林信行氏が読み解いた。
ハードの悪用を防ぎ、必要以上の情報は渡さない
6つの取り組みの2つ目は、ハードウェアとOSの横断的な仕組みという点でAppleらしい。ユーザーが誤って操作をして、気がつかない間にカメラで自分の映像を垂れ流していたり、マイクで音声を漏らしてしまったりといった不幸が起きないように、iPhone/iPad画面の上にカメラやマイクの利用中はメニューバーに緑色の点が、そしてマイクを使用して録音中のときはメニューバーにオレンジ色の点が表示される。ちなみに録音中の表示は、Apple Watchでも表示される。
Macの内蔵カメラと異なり、iPhoneやiPadのカメラには使用中であることを示すインジケーターがないが、iOS 14ではカメラの使用中、メニューバーに緑色の点が光る。また、マイクの使用中はオレンジ色のライトが付く
iPhoneやiPadのアプリは、App Storeで提供される前に審査を受けるので、ユーザーが知らない間に盗聴しているようなアプリは基本的にないはずだが、例えば何らかの方法でマルウェアが忍び込んだり、悪意のあるWebサイトに、うっかりカメラやマイクへのアクセスを許可してしまったりした場合でも、隠し録りがあればすぐに気がつくことができる。
6つの取り組みの3つ目は、位置情報についてだ。自分が今、どこにいるかは、今の自分に関係ある情報を引き出す上に止むを得ない気もする。だが、例えばローカルニュースを表示したいだけのニュースアプリや、街のレストラン情報を調べるアプリには現在いる正確な位置を教える必要はない。
そこでiOS 14では、approximate location(だいたいの位置)を教えるオプションが加わる。これは、アプリやサービスに正確な現在地を教える代わりに、10平方マイル(約26平方km)の誤差で漠然と位置を伝える方法だ。ちなみに、東京にある23区の面積の平均が26.88平方km(渋谷区で15.99平方km)なので、集積密度が高い東京やニューヨーク、ロンドンといった大都市で暮らす人にはやや大雑把過ぎるボカし方かもしれない。
6つの取り組みの4つ目は、「Appleでサインイン」だ。これは「Facebookでログイン」や「Googleでログイン」といったソーシャルログインの代替として2019年に発表された。
ソーシャルログインは、新たに使いたいサービスへの登録の手間を軽減してくれる代わりに、ユーザーの行動監視やメールアドレスを流出させ迷惑メールを増やすなどの危険性があった。
Touch IDやFace IDを使って、簡単にサインインできる「Appleでサインイン」は大好評で、KAYAKなどのアプリでは、この機能の提供で20%もユーザーが増えたという。秋以降に提供の新OSでは、既に他のソーシャルメディアなどで登録していたアカウントを「Appleでサインイン」にアップグレードするオプションが提供されるようになる。より安全に、そして指紋や顔認証を使ってより簡単にサービスを使い始められるメリットがある
Appleは2019年、これらに替わる「Appleでサインイン」の提供を開始した。ユーザー情報は一切受け取らず、メールアドレスの登録が必要なサービスでも、迷惑メール対策としてそのサービス専用のメールアドレスを作るという徹底してユーザーの立場に立った技術だ。この1年で、同技術を使って登録されたユーザーアカウントは2億件に達したという。だからといって、それでAppleが個人情報やお金も得ることはないが、代わりに製品利用時の安心を向上させ、ブランド価値を上げようというのがAppleの戦略だ。
同技術を使ったサインインの場合は、指紋認証や顔認証が使えるという便利さもあって、旅行検索サービスのKAYAKでは利用者登録の数が20%も伸びたという。KAYAKによれば、他のソーシャルログインに比べて利用継続率も2倍だという。
ユーザーからは、既に他のソーシャルログインで登録していたサービスやアプリを「Appleでサインイン」で利用したいという声が多かったことを受け、Appleでは開発者に「既存アカウントを『Appleでサインイン』にアップグレード」するオプションの採用を促すという。
これにより、人前でパスワードを入力する、といった危険もさらに減るはずだ。
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