「Apple Silicon」はMacをどう変えるのか Windowsから離れiPhone・iPad互換が強みに:本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/4 ページ)
「Apple Silicon」によってMacが、そしてAppleが「得る価値」と「失う価値」は何か。WWDC20の発表と技術セッションの内容から、年末には登場するというApple Siliconとそれを搭載するMacについて考える。
ファブレスであることのリスクは?
これまでAppleが設計したプロセッサがそうであったように、Mac用のApple SiliconもファウンドリーのTSMCに生産委託されるのだと考えられる。
TSMCの他に最先端のCPUを生産できるのは、AMD系のGlobalFoundriesが最新プロセスの開発を断念したことから、Intel、Samsung以外には存在しないと言っていい。しかも、パソコン向けに使える高性能となると、Samsungは微妙なところ。事実上、選択肢はIntelとTSMCしかない。
そのTSMCにはAMDをはじめ多くの企業が生産委託を行っているため、必然的に生産キャパシティーは奪い合いになる。余談だがQualcommが生産委託先の軸足をSamsungに移したのも、そうした側面があるのかもしれない。
もっとも、TSMCにとってAppleは重要な生産パートナーであるだけでなく、恐らくは最新の生産設備に対する投資でも協力関係にあると想像される(Appleはパートナーの生産設備に自ら投資することで安定供給を受ける手法を多用する)。
次世代iPhoneに搭載されるだろう「A14」は、TSMCが新しく立ち上げる5nmプロセス(N5)を用いて生産が開始されていると台湾メディアなどで報道されている。Appleは7nmプロセスのN7、あるいはその改良版であるN7+も、いち早くAppleのSoCで導入しており、その関係が相当に密であることは想像に難くない。
さらにTSMCは、米アリゾナ州に120億ドルの巨費を投じて新しい半導体工場を設置するとの報道もある(確定はしていない)。TSMCとしてもiPhone向けSoCの生産を独占できるなら、Appleと二人三脚で進むことをちゅうちょする必要はない。将来、Macがパソコン市場を席巻するようになれば、TSMCだけでその数のプロセッサは賄えないが、現時点でその心配は無用だろう。
いずれにしろ、Appleの要求をクリアできるのは、恐らくTSMCしかないからだ。
x86互換とiPhone・iPad互換を天びんにかけた結果
さて、いろいろとApple Siliconに関してWWDCでの情報などもまとめてきたが、Macが進化するために必要なかじ取りである上、恐らくIntel CPUへの移行時よりも小さな混乱で移行を行えるのではないか。これは、あらゆる方面からの観測だ。
既存アプリをApple Siliconで動かす際の注意点に関しても、「メモリページの最小サイズが異なる」「Intel CPU搭載Macには物理的に存在しない機能がある」といったことを除けば、多くが最適化で互換性の影響は小さいのではと感じられた。
macOS上で動作する「Rosetta 2」のパフォーマンスに関しても、すぐに答えは出てくるだろう。一方、Intel CPUを使ってきたが故に、Apple Siliconで(x64版・x86版の)Windowsの仮想化もデュアルブートもできない点を惜しむ声はしばらく続くだろう。
しかし「Windowsがなければ使えないアプリの動作」と「iPhone・iPadと同じアプリがネイティブで動く」ことを天びんにかけたとき、消費者にとってどちらが中長期的に有益かといえば、恐らく後者ではないだろうか。それは開発者にとっても同じだ。
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