「自動機内モード」はどうやって判定している? レノボ大和研究所スタッフが語る「ThinkPad」の電源管理の秘密(1/2 ページ)
レノボ・ジャパンの「ThinkPad」は、電源管理面でいろいろなこだわりが詰め込まれている。開発を主導する同社大和研究所の担当者に、その秘密を聞いてみた。【訂正あり】
日々の記事作成や取材において、持ち運べるノートPCは欠かせないものだ。筆者は筆者は個人使用のノートPCとしてレノボ・ジャパンの「ThinkPad X1 Carbon(第7世代)」を使っている(参考記事)。2017年に購入して以来、国内外の出張を中心に“相棒”として手放せない存在となっている。
このX1 Carbonもそうなのだが、ThinkPadには航空機内でスリープを解除したり電源を入れたりすると自動的に「機内モード」が有効になる「飛行機電源モード」が用意されている。飛行機でThinkPadを使うと「あれ、勝手に機内モードになった!」と驚いた人も少なからずいるはずだ。筆者もその1人である。
この他にも、ThinkPadの電源管理(パワーマネジメント)にはさまざまな工夫が凝らされている。ThinkPadの開発を主導する同社の「大和研究所」(横浜市西区)の担当者に、その秘密を伺った。
【訂正:7月15日18時20分】初出時、飛行機電源モードの説明の一部に誤りがありました。おわびして訂正いたします。
ThinkPadのユーティリティーは「Commercial Vantage」に
ThinkPadを含むレノボPCは、独自ユーティリティーソフトウェア「Lenovo Vantage」をプリインストールしている。ハードウェアやセキュリティに関する情報の確認や設定など、Lenovo VantageはレノボPCには不可欠なソフトウェアで、後述するThinkPadの電源管理機能の多くは、このLenovo Vantageとの連携で提供される。
Lenovo Vantageには、家庭での利用を想定した機能も多く盛り込まれている。そのため、主にビジネスでPCを使う場合、どうしても“不要”な要素が多く出てしまう。そこでレノボは2021年、家庭向けの機能を一部省略した上で、オフラインインストール(Microsoft Storeを使わないインストール)や「ActiveDirectory」を使った一括管理をサポートする新しいユーティリティーソフトウェア「Lenovo Commercial Vantage」を公開した。
Commercial VantageはThinkブランドの製品に合わせた黒基調のデザインとなっている。省かれたのは家庭向けの機能だけなので、Lenovo Vantageと同様にThinkPadの電源管理機能にも対応する。
“排他”とはなるが、Lenovo Vantage(※)をプリインストールするThinkPadでも、Commercial Vantageは利用できる。逆に、Commercial VantageをプリインストールするThinkPadでも、Lenovo Vantageは利用できる。使う機能や環境に合わせて、好きな方を使おう。
- →Lenovo Vantage(Microsoft Store)
- →Lenovo Commercial Vantage(Micorosoft Store)
(※)同アプリの前身である「Lenovo Settings」を含む
シンプルながらも奥深い「飛行機電源モード」
飛行機電源モードは航空機内で自動的に機内モードを有効化する機能……と思っていたのだが、大和研究所の担当者から話を聞く限り、それは正しい解釈ではなかった。
ThinkPadではモデルに応じてさまざまな出力のACアダプターが使い分けられている。とりわけ、強力な独立GPU(GeForce RTX/Quadroシリーズ)を搭載している「ThinkPad X1 Extreme」や「ThinkPad Pシリーズ」では、90W以上のACアダプターが付属する。
一方で、最近の航空機の座席のコンセントは出力(消費電力)を1つ当たり60W前後に制限している。60W出力のコンセントに、それを超える出力を求めるACアダプターを“無策”につなげてしまうと、航空機の電源装置に負荷を掛けてしまう。
そこで飛行機電源モードの登場だ。このモードが有効になると、ThinkPadの電源入力の最大電流が制限される。90W以上のACアダプターを使っていても、安心して飛行機のコンセントにつなげられる。
機内モードの自動有効化は、飛行機電源モードの“補助機能”であって、メイン機能ではなかったのだ。
飛行機電源モードは、Lenovo Vantage/Commercial Vantageの設定からオン/オフを切り替えられる。「自動検出」を有効にすると、ユーザーが飛行機に乗ったらオン、降りたらオフに自動で切り替わる。
ここで疑問なのが、飛行機に「乗った」「降りた」をどうやって判定しているのかである。大和研究所の担当者によると、「Windows 10の機内モード」と「飛行機のWi-Fi(無線LAN)アクセスポイント」を使っているという。
Windows 10において機内モードを手動で有効にすると、それに連動して飛行機電源モードも有効になる。万が一、機内モードへの切り替えを忘れても、機内Wi-Fiサービスのアクセスポイントを検出すると、飛行機電源モードを自動で有効にしてくれる。飛行機から降りて飛行機のWi-Fiアクセスポイントを検出しなくなると、飛行機電源モードは自動で解除される。
ここで「機内Wi-Fiのアクセスポイントをどうやって検出しているの?」という新たな疑問が生じる。これはLenovo Vantage/Commercial Vantageにアクセスポイント名(SSID)のデータベースを搭載し、Windows 10が検出したSSIDと照合することで実現しているという。
機内Wi-Fiのアクセスポイント名は、意外と限られている。例えば、米Gogoのシステムを利用している機内Wi-Fiシステムなら、航空会社を問わず「gogoinflight」というSSIDを採用している。データベースに1つ1つ登録しても、意外と手間はかからないのだ。
なお、SSIDの収集には世界中のLenovoのスタッフが関与している。新しいSSIDを認知すると、Lenovo Vantage/Commercial Vantageの開発チームに連絡が入り、アプリを更新するタイミングでデータベースも更新される。意外とアナログな作業によって支えられている部分もあるのだ。
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