始めから“100点”を求めないことがポイント――茨城県守谷市が全小中学校のオンライン授業をいち早く実現できた理由(後編)(1/4 ページ)
東京のベッドタウンとしても知られる茨城県守谷市が、2021年8月25日から9月12日にかけて全ての市立町中学校において完全オンライン授業を実施した。オンライン授業を実際に行った際の様子と、そこから見えた課題を担当者に聞いた。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、茨城県守谷市は2021年8月25日から同年9月19日まで全ての市立小中学校の全クラスにおいてオンライン授業を実施した。他の市区町村では「夏休みの延長」または「分散登校」といった措置を講じた中、“完全な”オンライン授業の実施に踏み切ったのは異例ともいえる。
「なぜ守谷市では完全なオンライン授業を実現できたのか?」と疑問に思った筆者(守谷市民)は、オンライン授業実施の立役者である守谷市教育委員会の奈幡正参事から話を伺った。前編では、守谷市のICT教育環境や、2021年8月25日からオンライン授業を実施するに至った経緯をまとめた。
後編では、オンライン授業を実施するに当たっての現場での準備状況、実際にオンライン授業を実施した際の様子や、実施してみて見えた課題などをまとめる。
教員には「Google Suite」や「Zoom」の使い方の研修を実施
―― オンライン授業の実施に向けて、教員の皆さんが行った準備や研修について聞かせて下さい。息子が通っている中学校では、公式サイトに「8月20日に先生が集まって研修をした」とありましたが。
奈幡氏 先ほど申し上げましたように、校長会では4月と7月にオンライン授業を想定した研修をしました。その後、市内の児童数の多い大規模な小学校(守谷小学校や黒内小学校)では早めに教員の研修を始めていたようです。
オンライン授業に向けた教職員研修という観点では、最も必要だった研修は「Zoom」においてホストとして児童/生徒を招き入れられるかとか、「ブレイクアウトセッション」をどうやって使うかとかいった内容ですね。
教職員は教えること(授業をすること)自体は十分に慣れているのですが、カメラ越しに授業することになれているとは限りません。なのでオンラインで授業をする際に必要な操作や振る舞いの研修も必要でした。スライドやデジタル教科書の内容をZoomの画面で共有する操作などは、さすがに「どの教職員も慣れている」という状況ではありませんでしたから。
オンライン授業をすると決めた際に、各校には8月25日までに一連の操作の研修を必ずするように伝達はしましたし、実際に学校では研修を実施してくださったと思います。教育委員会としては、夏休み中に学校単位でGoogle Workspaceの「Classroom」の使い方と、Zoomの研修を実施しました。クラウド上で資料を配付したり改修したり、Google Meetでチャットをする方法は、そこで改めて教えています。
―― 研修の実施は、教育委員会が主導したのですか。それとも、各学校の方針に従って、という感じでしょうか。
奈幡氏 基本的には各学校の方針に従って実施しています。
Google Workspaceの使い方については、2020年度の夏休みにも研修を実施しました。守谷市と契約しているICT支援員の方の協力を得て、Workspaceの概要とログイン方法を学ぶ、といった感じです。2021年度は、Workspace関連で実績のある企業の方に依頼をして、学校単位でより実践的な使い方を指導しています。
オンライン授業当日 接続できなかった中学生はわずか0.8%
―― 私は8月28日まで入院していたので、オンライン授業の初日の様子を見られませんでした。代わりに、まだ学校が休みだった娘に息子の様子を見てもらったのですが「生徒がほぼ全員そろっていた」と言っていました。これはすごいことだと思います。
奈幡氏 おっしゃる通り、初日から非常に高い接続率を達成できました。守谷市立中学校に通っている生徒は合わせて1915人いるのですが、デバイス不良などで接続できなかった生徒はわずか16人でした。率にすると0.8%です。
一方、守谷市立小学校に通っている児童は合計で4247人います。保護者の方の仕事の都合で児童クラブからオンライン授業に参加した児童もいますが、接続できなかった児童は140人、率換算で3.3%でした。こちらも、初日としては非常に低く抑えられていると思います。
ここまで接続できない事例を減らせたのは、オンライン・ホームルームを始めとして“平常時に”家庭と学校をオンラインでつなぐ練習をしていた実績が大きいのかなと思います。私が勤務していた守谷小学校では、2020年度の冬休みに全クラスでGoogle Classroomを使った課題の配布/提出を行いました。そういった教員や保護者の皆さんの経験も、成功に当たってのポイントになったと考えています。
―― 今回のオンライン授業で、逆に苦労したことはあるのでしょうか。
奈幡氏 あえていえば“意識”かなと思っています。
石井さんも息子さんの授業を見てお気付きになったかと思いますが、教師のスキルは日に日にアップしています。私たちもオンライン授業の様子を数日掛けて視察したのですが、日々授業の様子が変わっていくことを感じました。
教師にもいろいろな人がいますが、教えることが本当に好きで、そのことに情熱を注いでいる先生は少なくありません。画面越しとはいえ、“いつも通りの授業”をしたがるんですよね。
最初は「事前に用意した動画を流して指示だけしよう」「課題を出して後で回収しよう」と考えた教師もいるようなのですが、最終的にいつも通りの授業をオンラインで実現するという方向になりました。自分で作った資料を提示して、いつものように児童や生徒に呼びかけて、子どもからの反応を聞いたり意見のすり合わせをしたりといった感じで、思ったよりもスムーズに「いつも通りの授業」ができるようになったようです。
守谷市の場合、オンライン授業に必要なシステムがしっかりとそろっていたことはもちろん、2015年からの経験の蓄積がうまく働いたのだと思います。合わせて、保護者の皆さんから絶大な協力を得られたこともスムーズにいった要因の1つだと考えます。
教員側は「ご家庭から本当につながるのかな……?」と相当な不安を覚えていたようです。石井さんの息子さんが通っている中学校を含めて、幾つかの小中学校は前日(8月24日)までに接続テストを実施したとの報告を受けています。
教員としては、当日につながるかどうかはもちろんですが「自分がホストとして授業を流せるのか?」「接続後にトラブルがあったらどうしよう?」といった不安もあったかと思います。これらの不安が初日でクリアにできたことは、すごく良かったです。
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