自由競争をうたって無法地帯を広げるIT企業に、政府はどのような後方支援をすべきか(5/5 ページ)
新たな市場を開拓するIT企業に、政府はどのような後方支援をすべきだろうか。キャッシュレス決済、App StoreやGoogle Play Storeとの比較などを踏まえて考えてみた。
開発者に利益を分配するApp Store
もちろん、こうした企業とAppleのようなプラットフォーマーを比べると規模は後者の方が圧倒的に大きく、ちゃんと富の分配が行われているのか不安になる気持ちは分かる。
だが、Appleが市場として用意したApp Storeには、世界中からおよそ50万人ほどの開発者が登録している。これは227の国の3000万人以上の開発者の仕事につながっており、日本だけでも57万人以上の雇用を創出している。Analysis Groupのエコノミストによれば、2020年の1年だけで6400億ドル以上もの事業売上を創出しているという。
App Storeで流通しているアプリからAppleが利益を搾取しているイメージを持っている人もいるが、広告モデルのものなどを含み流通アプリの85%ではAppleは利益の配当を受けず、全額が開発者の手に入っている。
2008年以来、アプリ販売やアプリ上での課金による手数料は長らく30%と決めていたが、2020年にコロナ禍に入ってからは、中小規模の開発社を応援すべく収益が100万ドル以内の開発者は手数料を半分の15%に引き下げた。App Store登録開発者の98%が該当する。当初、一時的な対策として始めたが、その後、恒久的な対応となった。
Appleが2021年に発表したプレスリリース。アプリの提供料金などApp Storeの規約の一部を見直したり、年間透明性レポートを出したり、コロナ禍で苦しむ小規模開発者やニュース配信サービスに対しての手数料見直しなども含まれている
App Storeを激しく非難している開発会社の1つにEpic Gamesがあり、同社はAppleと裁判を争っていたが、結果はほぼ全面的にAppleの勝訴だった(10の争点のうち9件でAppleの主張が認められた)。
裁判所はAppleのApp Storeやアプリ内課金の仕組みは開発者と消費者の双方に利益を与えていること、アプリの審査がiOS上のセキュリティやプライバシーの向上に貢献していること、Appleの開発者との契約が合法であること、そしてAppleが独占的な企業ではないことを認めた(Appleは詐欺などにつながる危険性を恐れて、同社を介さず審査ができない外部の決済手段の案内や誘導を禁じていたが、この1件に関してだけはEpic Gamesの主張が認められ、容認することとなった)。
このように、日本の政府が未だに後追いをしているシリコンバレーでの法の判断も、過剰な自由競争よりかは、開発者と消費者、双方のバランスを考えた内容にシフトしつつある。
そういった中で、サイドローディングを検討する内閣官房デジタル市場競争本部事務局は、世界中の人がうらやむ安心安全が強みの日本で、管理された正当な市場に加えて、自由競争を尊重し闇市を応援するようなもので、時代に合っていない。他国の動向を参照にするばかりでなく、たまには安心安全を最重要視する日本らしい判断を下して、その主張や判断を他国に示す側になってもいいのではないかと思う。
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