「デジタル時代に新たな花の文化を開かせる」――東信氏AMKKの滑らかなDX化と新たな挑戦:デジタルで新しい「花」の姿を表現し続けたフラワーアーティスト(2/4 ページ)
Apple製品を使い、これまでにない表現を続けるフラワーアーティストの東信(あずま まこと)氏。林信行氏が、花とデジタルツールとの融合や、制作にかける思いを聞いた。
デジタル機器の進化で変貌した製作風景
パソコンなどのデジタル機器には元々、興味があり使い始めも早かったという東氏。
「昔はパソコンに使われるんじゃないなどと、よく言われていました」というが、現在、デジタルツールでの製作に、どのような可能性を感じているのだろう。
「(紙の上での)手描きには手描きの良さがあるけれど、デジタルツールでは、それをすごく細かく具体的にできるのがの良いところ」と述べる。
できた作品をグループで共有し、チームメンバーのそれぞれが、MacやiPad上のソフトで、提案内容を描き込むといった共同作業もしているという。
東氏はこうも付け加えた。
「(MacやiPadを使うと)色使いも広がります。僕らの仕事は色の仕事。手描きだとどうしても色鉛筆を使うことになります。でも、色鉛筆とデジタルツールでは使える色の範囲の広さが全然違います。椎木(しいのき)なんかは、実際の写真から色を抽出するので、ものすごく細かい再現ができています」
椎木とは、東氏と共に花や植物を題材とした実験的なクリエイションを展開していく集団「東信氏、花樹研究所(AMKK)」を主宰するボタニカル・フォトグラファーの椎木俊介氏のことだ。
「初めにベースはこんな感じでやっていこう、と話し合っている時に特に効果を感じます。昔だったら写真集を広げて、この部分はこんな感じで行こうとかやっていたのが、今はiPadにApple Pencilで描いてしまう」という。
椎木氏が思い出したように言う。
「つい最近も、東と色の校正紙って使わなくなったよね、と話していました。MacやiPadのディスプレイの色再現性が高いので、それで足りるようになっちゃったんです。昔は色再現性の良さをうたう他社製のディスプレイを使っていた時期もありますが、今はApple製の方が良くなってしまっているので、ほぼApple製品だけで制作が完結しています」
東氏が付け加える。「ひと口に青と言っても、水色から紫がかったものまであるじゃないですか。昔は資料に必ずPANTONE(測色機器メーカー)のカラーチャートが貼ってあって、ここからここまでの色の振り幅で選びましょう、と言ったやりとりをしていました。でも、今はiPadの画面を見せて『この色の花を買ってきて』で済んでしまうので、昔とは全然変わっちゃいましたね」
パソコンやiPad上でシミュレーションした通りの色の花が、そんなに都合よく見つかるのだろうか。
「厳密にその色、というわけではありません。まずは作品全体の大枠を決めておいて、その後、『この花を黄色に変えてみたら、どういう見え方になるかな』と言った具合に試行錯誤し、『やはり、ここは青がいいよね。黄色の花の横は青』と言った具合に1つ1つのパートを細かく作リ込んでいきます」という。
「ICED FLOWERS」。2014年12月~2015年1月にかけて作られた氷結の花。その後、2016年9月にはファッションブランド「Doris Van Noten」の2017春夏ウィメンズコレクションのショーにも採用された
こういったAMKKでの作業の進め方は、うれしい副産物を産んだ。
1つは「ペーパーレス化」だ。
「やはり、花屋を営んでいるだけあって、環境には人一倍気を使う」と東氏もペーパーレス化が進んだことを喜んでいる。
もう1つは、リモート作業がしやすいことだ。
コロナ禍で、ドバイ王室のウェディングの花を担当することになった東氏。しかし、コロナ禍で現地に渡航することはできない。だが、まずはいつものようにiPadなどで飾る花の最終的なイメージをシミュレーションした後、その画像をドバイにいる製作スタッフと共有しながらビデオ通話で指示を出す形でフルリモートでもスムーズに仕事ができたという。
「ここの空間にはこういうものを」とか「ここは変えてほしい」とか。向こうから送られてきた写真に『もうちょっと、ここのカーブは出してください』と言った指示を描きこんで、すぐに直してもらいました」という。
だが、東氏がなんといっても大きな恩恵を感じるのは、準備に費やす時間の短縮のようだ。
「僕らのゴールって、やはり作品を作ることじゃないですか。それが、こうした(デジタル)作業のおかげでゴールに向かって最短距離で進めるようになったことを、本当に心強く思っています。この5年くらいで意思疎通も含めた準備時間は、3分の1くらいになったんじゃないですかね」と振り返る。
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