テクノロジーの発展を加速してきたインクルーシブな試み【Microsoft編】:林信行の「テクノロジーが変える未来への歩み」(3/4 ページ)
テクノロジーが困っている人を助け、そして新たな発展へと結びつく――林信行氏が、ITメーカー各社のインクルーシブな試みを取り上げていく連載、スタートです。
ゲームにもアクセシビリティーを
MicrosoftのXboxは、そもそも付属のゲームコントローラーの時点で片手でも握りやすいなど、手が自由に動かない人のことを考えた設計になっている。
その上で、別売りのオプションとして提供されているのがXbox Adaptive Controllerだ。障害者向けのアクセシビリティー機器というと無骨な見た目の製品も少なくないが、白い長方形のボディーに2つの大きなボタンや小さなボタン、そして十字ボタンといったスッキリとした見た目に仕上がっている。
これを安定したテーブルなどに置いて、アゴや肘で押したり、床に置いて足で操作したり、自由になる片手で握った標準のコントローラーと組み合わせて使ったりと、障害の種類に応じてさまざまな操作が可能で、全てのボタンをカスタマイズでき、どの役割を割り当てるか変更できる。
障害を持つ人がさまざまな操作に使うスイッチ類は、ヘッドフォンケーブルなどと同じ3.5mmのミニジャックを使っていることが多い。Xbox Adaptive Controllerの上部に、Xbox標準コントローラーでできる全操作に対応する19個の端子が並んでおり、ここに自分に合ったスイッチ類を繋げて操作方法を自分に適応させることが可能だ。なお、他にUSB Type-A端子も用意されている
これだけでもかなり多くの障害者がXboxの操作をできるようになるが、ここで終わりではない。実は本体の上部に、オーディオミニプラグと同じ3.5mmの端子が19個用意されている。19というのは十字カーソルの上下/左右などを個別に数えたXboxコントローラーで行える全操作の種類の数だ。これらの端子に、自分の操作スタイルに合ったスイッチ類を接続し、XAC単体ではできない操作を補う。
押しボタンが一般的だが、障害の種類によって、頭を押し当てて操作できるもの、息を吹きかけて操作できるものなど、いろいろな種類のスイッチが市場には出回っている。
XACは、こういったさまざまな障害者向け操作機器とXboxをつなぐハブとしての役割も果たしているのだ。
スイッチを1つ1つバラバラに買わなくても済むように、米Logitech(日本ではロジクール)のゲーマー向け製品ブランド「Logitech G」(日本ではLogicool G)では、大小3つずつのボタンとクリップできるボタン2つ、タッチセンサー4つをセットにした「Logitech G Adaptive Gaming Kit」を提供している
クラウドファンディングで製品化された「Quadstick」は、両手両足のいずれも自由にならない人に向けたデバイスで、口に加えて操作する。口に加えて上下/左右に動かしたり、3つ並ぶ管のそれぞれから息を吸ったり、吐いたりすることで操作を実現している
そんなXACを評価したいポイントは、これだけではない。これだけ多くの役割を果たしながらも、同社の直販価格で1万978円(税込み、以下同様)と他のアクセシビリティー機器と比べても低価格な点も素晴らしければ、製品パッケージが片手で開けられる設計になっていたり、本体の底面に三脚や車椅子に固定するためのネジ穴が用意されていたりと、製品の隅々にまでさまざまな種類の障害者の声を取り入れている点だ。
もともとMicrosoftは、ユーザーの要望をまじめにヒアリングして機能として取り入れる企業文化が強い。このため、1990年代にはあまりにもマイナーなニーズまで取り込みすぎたMicrosoft Officeのアプリケーションが、機能過多で使い勝手を損なっていたようなこともあった。
Xbox Adaptive Controllerでは、こうしたMicrosoftらしい丁寧なヒアリングで多くの要望を取り入れながらも、それらをしっかりと整理してシンプルでありながら柔軟性が高いデザインに昇華している。
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