「障害のある人にAIができること」 MicrosoftとGoogleのアクセシビリティ最前線:ITはみ出しコラム
Microsoftの「Build 2018」、Googleの「Google I/O 2018」――2社の年次開発者会議が続いた1週間。両社とも障害のある人を支援するAI活用の発表が印象に残りました。
先週は米Microsoftと米Googleによる年次開発者会議の基調講演が連続し、日本のITに関わる人々は夜中のライブストリーミングを視聴して寝不足になったのではないでしょうか。仕事や生活の至るところに入り込んでいる両社がこれから向かっていく方向を示す基調講演は、開発者でなくても注目です。
Microsoftの「Build 2018」でもGoogleの「Google I/O 2018」でも、基調講演の至るところでAI(人工知能)が登場しました。2017年は「これからはAIだ」という感じでしたが、2018年はもう「AIが中心」です。そして、両社とも「アクセシビリティ」のためのAI活用について紹介したのが印象的でした。
Build 2018で紹介されたアクセシビリティ
Microsoftのサティア・ナデラCEOはBuild 2018基調講演の冒頭で、同社の責任の3本柱として「プライバシー」と「セキュリティ」、そして「倫理的なAI」を挙げました。
「私たちは、コンピュータに何ができるかだけでなく、コンピュータが何をすべきかを真剣に考える必要があります。そういう時代になったんです」とナデラさん。
基調講演前半の終わりに再登場したナデラさんは、「私たちには、テクノロジーが全ての人々に届くようにする責任があります」と語り、2500万ドルを投じる障害者向けAI開発プログラム「AI for Accesibility」を発表。視覚情報を音声で伝える「Seeing AI」、視線追跡機能でPCを操作する「Eye Control」、音声をイラストに変換する「Helpicto」などのMicrosoftの技術を動画で紹介しました。
Google I/O 2018で紹介されたアクセシビリティ
Googleのスンダー・ピチャイCEOもやはり基調講演の冒頭で、「テクノロジーによる人々の生活へのインパクトが増しており、Googleには責任がある」と語りました。同社はミッションとして「世界の情報を整理し、情報を誰でもいつでもアクセスできる有用なものにする」ことを掲げていますが、ピチャイさんはAIのおかげでそれがもっと可能になったと言います。
4月に発表した、同時に話している人の声を分離して字幕をつける機能を例に挙げて、一般の人にはもちろん、聴覚障害の人のために役立つと語った後、もう1つの例として、体の障害で話すこともキーボードなどでの入力もできないタニア・フィンレイスンさんと共同開発した「Gboard」のモールス信号入力機能を紹介しました。
Googleはまた、目の不自由な人に周囲の様子を音声で説明するAndroidアプリ「Lookout」も発表しました。スマートフォンの背面カメラに映る周囲のモノを、モノと認識すると、そのモノが何かを教えてくれます。
例えば廊下に置いてある椅子や棚のワイングラスなどに「椅子です」「グラスです」と言うだけでなく、ワインのボトルであればそのラベルも読んでくれます。AI採用の画像検索技術「Google Lens」を目の見えない人用に進化させた感じです。
背面カメラが自分の正面を向くように首からぶら下げて使うことが奨励されていて、モードによっては端末をコツコツとたたくとそのときカメラに映っているものについて説明してくれます。このアプリは年内に米国のGoogle Playストアで公開の予定です。
AppleのWWDC18でもアクセシビリティについて発表がある?
もちろんCSR(企業の社会的責任)の意味もあるでしょうけれど、アクセシビリティはAI開発にとっても追求しがいのある分野だから、MicrosoftもGoogleも力を入れているんだと思います。また、機械学習のためのデータを集めるためには取り組みについて広く知ってもらう必要があります。
そういえば4月30日に開催されたFacebookの年次開発者会議「F8 2018」の基調講演では、アクセシビリティについて特に発表はありませんでした(2016年と2017年には触れていました)。2018年はプライバシー問題で手いっぱいだったのかもしれません。
そして、Appleの年次開発者会議「WWDC(Worldwide Developers Conference) 2018」は6月4日からです。アクセシビリティについて何か発表があるでしょうか。
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