Microsoftの斬新なコントローラー「Xbox Adaptive Controller」はこうして生まれた:ITはみ出しコラム
Microsoftが障害のあるユーザー向けに開発した斬新なゲームコントローラー「Xbox Adaptive Controller」。その誕生の経緯を紹介します。
5月17日は「Global Accessibility Awareness Day(GAAD)」でした。GAADのサイトによると、この日の目的は「デジタル(Web、ソフトウェア、モバイルなど)のアクセシビリティとさまざまな障害のあるユーザーについて、みんなで話したり、考えたり、学んだりする機会を持つこと」とあります。毎年5月の第3木曜日がGAADです。
さて、米MicrosoftはこのGAADに合わせて、障害者向けのユニークな取り組みを発表しました。Xbox OneとWindows 10デバイスに接続して使える障害者向けのゲームコントローラー「Xbox Adaptive Controller」です。健常者でも使いたくなるような、かっこいいデザインです。2018年内に99.99ドルで発売の予定。
Microsoftがこのコントローラー誕生の経緯を公式ブログで語っているので、かいつまんでご紹介します。営利企業なのに、もうからない(100ドルじゃ赤字かも)プロジェクトが実現したのはすごいなと思います。
きっかけは、2014年のある日。ある従業員がTwitterでWarfighter Engagedという非営利団体が開発した、傷痍軍人のためのゲームコントローラーを見たことでした。この従業員はWarfighter Engagedの責任者であるケン・ジョーンズさんの話を聞き、障害者にとっていかにゲームで遊ぶのが大変かを知りました。
この従業員が、Microsoftの年次社内ハッカソン「Ability Summit」の2015年度で、仲間と一緒にジョーンズさんとも相談しながら、「Kinect」を使ったコントローラー制御システムを開発しました(そもそもアクセシビリティに特化したハッカソンがあるのがすごい)。このチームがハッカソンで優勝し、それに触発された別のチームがXboxのコントローラーにボタンなどを追加して使いやすくするプロジェクトを立ち上げました。
翌2016年のAbility Summitでこのコントローラーがかなりいいものになってきたところに、ちょうどMicrosoft社内ではゲームを含むサービス全般でのダイバーシティー問題についての関心が高まっていました。サティア・ナデラCEOが開発者会議「Build 2016」の基調講演の最後に、目の不自由な同社従業員が開発したAIツールを取り上げたのが印象に残っています。
とはいえ、このコントローラーの製品化にすぐにゴーサインが出たわけではありません。いくら大企業でも、人材は限られているし(「Xbox One X」の開発と重なっていました)、そもそもどんなに良いものにしても、こうした製品は売れる台数があまり見込めず、もうからないのは明らかです。
そんな中、Adaptive Controllerプロジェクトに初期から関わっていた現「Experiences & Devices」部門のディレクターであるクリス・ハンターさんと、Xboxのシニアデザイナーであるブライス・ジョンソンさんが2017年6月、本社キャンパスに従業員のアクセシビリティへの関心を高め、障害者の意見も聞くためのスペース「Inclusive Tech Lab」を開設しました。
このラボで実際の障害者ゲーマーのフィードバックを集めたり、従業員を啓蒙したりしつつ、ハンターさんは根気強くプロジェクトの重要性を偉い人たちに訴えました。Xboxのハードウェア担当ジェネラルマネジャーがこのプロジェクトを支持し、「投資収益率をもうけだけでみてはだめだ」と主張しました。
ハンターさんはナデラCEOのビジョン「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする」を引き合いに出し、「このビジョンを本当に実現したいなら、有言実行しなければ。このコントローラーはまさにそのものだ」と訴えました。
こうして開発したコントローラーには、さまざまな障害がある多くのゲーマーからのフィードバックが生かされています。例えば、背面にずらっと並んだジャックが横一列なのは、2段になっていたりするよりアクセスしやすいから。本体の横幅は、ひざの上に置いても滑り落ちない絶妙なサイズです。
底面の3つのネジ穴は、車椅子に面ファスナーでコントローラーを固定して使っていたゲーマーのために追加しました。車椅子用アタッチメントの標準仕様なのだそうです。
パッケージにも工夫を凝らしました。パッケージ担当部署(そんなのがあるんですね)は、「開封の儀」の喜びをゲーマー本人に味わってもらうため、歯を使ってこじあけたりしなくてすむように設計しました。
こうしたアクセシビリティの取り組みは、従業員の意識を高めるし、企業イメージアップにもつながります。お金持ちな企業は是非、こうした取り組みに予算をとってほしいところです。
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