テクノロジーの発展を加速してきたインクルーシブな試み【Microsoft編】:林信行の「テクノロジーが変える未来への歩み」(4/4 ページ)
テクノロジーが困っている人を助け、そして新たな発展へと結びつく――林信行氏が、ITメーカー各社のインクルーシブな試みを取り上げていく連載、スタートです。
シンプルながら効果的なアダプティブキット
Microsoftのこれらのアクセシビリティーへの取り組みは、着実にいろいろなところに広がっている。最近の取り組みとしては、同社の2in1タイプのノートPCである「Surface」シリーズのために作られた「Surface Adaptive Kit」がある。片手でも開けやすい正方形のパッケージに収まっているのは、4枚のシートに用意された合計40種類のステッカー(とシールを貼るのに使うアプリケーター)だ。
アダプティブキット付属の「凹凸ラベル」。「●○-×」の4種類の記号が、滑らかな膨らみで表現されている。繊細な浅緑色や鮮やかな黄赤色、青系と黄色系のグレーといった4色の選び方も絶妙だ。こうしたアクセサリーは見た目が軽視されることが多いが、このように美しく仕上げることは使う人の尊厳を守る意味でも重要だと改めて感じさせられた
「●○-×」の4種類の記号を起伏で表現した「凹凸ラベル」は4色用意されており、例えばワイヤレスヘッドフォンの左右を分かるようにしたり、音量の上げ/下げのボタンがどこか分かるようにしたりといった使い方が可能だ。
凹凸で12種類の記号を表現した半透明の「キーキャップラベル」は、その名の通りキーボードに貼って使う。よく使う大事なキーの上に「○」のラベルを貼ったり、区別のつきにくい「-」キーと「_」キーなどに、それぞれの記号のラベルを貼っておけば弱視の人などでも迷わずに済む。
ラベルが半透明なので、例えば同じSurfaceを家族などと共有している場合、家族もちゃんとラベル越しにキーの刻印を見ることができる。
凹凸ラベルを、Ankerのヘッドフォン「Soundcore」に貼ってみた。音量調整のスイッチがもともと分かりやすいヘッドフォンなので、左右を区別すべく○と×を左右をに貼り、「-」と「●」をそれぞれUSB端子とヘッドフォン端子の位置に貼ってみた
どのラベルをどのキーに貼るかといった指定はなく、ただいくつかの分かりやすい起伏がついたラベルが用意されているだけのキートップラベル。Windowsキーやゲームなどの上下/左右で使うWとSキー、音量アップキーなどに貼ってみた
5種類の「ポートラベル」は、5種類の異なる凹凸テクスチャーパターンを持つ、長短1組ずつのラベルとなっている。短い方のラベルをPC側の端子に、そして長い方をその端子に刺すケーブル類に取り付けておけば、弱視の人でもラベルを触って、どの端子をどこに接続するかが分かる。
2種類の「開梱サポート」はSurface本体を開いたり、Surface背面のキックスタンドを開いたりするのを助ける。幅広のステッカーは、指を引っ掛けて開けるのをサポートしてくれる。一方、幅が狭い方のステッカーは穴にひもやリングなどを通せるようになっており、それを引っ張ることで液晶画面やキックスタンドを開くのをサポートしてくれる。
幅広の開梱サポートステッカーは、指を引っ掛けて開くのに使える。今回は外側に貼ってみたが、視覚障害があって画面が見えないのであれば、本体内側のディスプレイに貼ってしまった方が剥がれにくくて良いかもしれない
と、ここまで紹介してきたのは典型的な使い方で、実際にはどのステッカーをどこに貼るか、どう使うかは基本的に全てユーザー任せだ。例えば、色の美しい凹凸ラベルを端子のヘッドフォン側の端子位置を示すのに使ってもいいだろうし、そもそもSurfaceに使わなくても、半透明のキーキャップラベルをスマートフォンのキーボードが表示される位置に貼るなどの使い方や、ポートラベルをTVの入力端子やオーディオ機器のケーブルを区別するのに使うなどの使い方もありだろう。全40種類がセットになって1870円という手頃な価格は、こうした気軽な使い方を後押ししてくれる。
Microsoftのアクセシビリティーは、このステッカーのように基本的にどう使うかの判断はユーザーの自由に任せるスタンスで、そのためにPCもゲーム機も、OSレベルから非常にカスタマイズ性が高い設計なのは好感が持てるところだ。
アダプティブキットが素晴らしいのは、用途も使い方も一切決めておらず判断をユーザーに委ねていることにある。これは、もしかしたらスマートフォンのフリック入力の補助にも使えるのではないかと思い、iPhoneのキーボードの位置に合わせて貼ってみた。フリック操作が成功しているか否かの判断ができないので完璧な文字入力ができるわけではないが、少なくとも画面を見ないでもキーの位置が分かるようになった
なお、Kinectが登場した時、多くの開発者がこれをゲームの操作だけでなく、自社開発のサービスやインタラクティブ作品作りにも採用する流れがあった。同様に多くの開発者がXACへの対応を図ってくれれば、自ら開発したサービスや作品をより多くの人が触れられるようになる。そのことを少しでも多くの人に知ってもらいたい、というのも本稿を書いた理由の1つだ。
※記事初出時、「ポートラベル」の種類に誤りがありました。おわびして訂正します(2023年2月23日19時)。
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