3つのキーワードで読み解く! 「WWDC23」から見えた2024年のAppleプラットフォーム(4/5 ページ)
2023年5月に開催されたAppleの「WWDC23」。話題は「初の空間コンピュータ」として発表された「Apple Vision Pro」に行きがちだが、Appleのプラットフォームを支える、既存OSのバージョンアップも見逃せないポイントが多い。
心の健康や近視の予防に取り組むヘルス機能
そして最後のキーワードであり、もう1つの重要な新トレンドが、さらに進んだ「ウェルビーイング」への取り組みだ。
Appleが2015年にApple Watchをリリースして以降、Appleは事故や心疾患で命を落としかけていた世界中の多くの人々の命を救い、毎年のように同社に届く感謝のメールが紹介されている。
ただし、これまでApple WatchやiPhoneが提供していた健康機能は、日々の生活の中での運動量を計測して人々をより活動的に仕向けたり、心臓に関するさまざまなバイタルデータを収集したり、血中酸素濃度の計測など身体的な健康だけにフォーカスをしていた。
iOS 17やiPadOS 17そしてwatchOS 10で、Appleは常に良いメンタルヘルスを保つための機能の提供も始める。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学および精神医学の著名な教授のミシェル・クラスク博士の協力も得て、日々の生活の中で感じる心の状態に向き合い記録をつける機能を開発した。
新たに「ヘルスケア」アプリが搭載されるiPad/iPhone/Apple Watch上で、定期的にその時の心の状態を「非常に快適」から「非常に不快」の間のどの状態にあるかをスライダーを使って入力、次に「旅行」や「家族」など自分の気分に最も大きく影響を及ぼしている関連事項を選び、「感謝」や「心配」といった自分の気持ちを記述する。
クラスク博士は「自分の気持ちを認識することは、辛い感情に対処し、前向きな瞬間を大切にし、より健康的に過ごすのに役立つことが分かっています」と語っている。実際、UCLA Digital Mental Health Studyの参加者アンケートの初期結果では、参加者の80%以上が研究調査アプリで気分を振り返ることによって感情の認識が深まったと回答し、約半数がより健康的になったと回答している。
新機能はこの研究成果に基づき、これらApple製品のユーザーが自分の心の状態と向き合うことは、感情の認識を深め、回復力を高めることを目指している。
実は日本でも、「ひもろぎ心のクリニック」(現市ヶ谷ひもろぎクリニック)の故渡部芳徳医師が、精神疾患を抱えている人の薬依存を減らすことを目的に、同様の心の状態を記録するセルフチェックアプリ「アン・サポ」の開発を主導した。
2015年時点で1万2000人のユーザーを獲得していたが、ダウンロード者の数と内閣府が発表している都道府県別自殺者数と極めて連動性が高かったことなどからも、日本でも非常にニーズのあるアプリであることが分かっていた。
アン・サポは故渡部医師が福島県白河にあるクリニックで紙の手帳を使って行っていたケアの方法をアプリ化したもので、日本人専用に開発したうつ症状および不安症状評価スケール「HSDS/HSAS」を採用していたが、Appleの技術は米国で開発されたPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)に基づいたセルフチェックを用いている。今後は、これらがApple製品を通して世界のスタンダードとなるのだろう。
ヘルスケア関係で、Appleがもう1つ新たに取り組んだのが「視覚の健康」、平たく言えば「近視」を予防する機能だ。
2050年までに世界人口の50%、つまり50億人にも達すると言われている「近視」だが、眼科医は近視のリスクを低減するのに役立つ、小児期の重要な行動をいくつか推奨している。
そこで重要とされている1つの行動が、日中に屋外でより多くの時間を過ごすことと、デバイスや本などをもっと目から離して見ることだ。International Myopia Institute(国際近視機関)は、子どもは日中に80~120分以上は屋外で過ごすことを推奨している。
そこで新しいwatchOSでは、環境光センサーを使って日光の下で過ごした時間を測定、日光の下で過ごした時間の長さを、iOS 17とiPadOS 17のヘルスケアアプリで確認できるようになる(Apple Watchが多少服の袖に隠れていてもちゃんと測定可能なようだ)。
記録されたデータは、ヘルスケア共有機能を使って保護者のApple製品でもチェックできる。
これに加えて、iPhoneとiPadのFace IDに用いられるTrueDepthカメラを使って、30cm未満の距離でデバイスを持っている時間がしばらく続くと、デバイスを遠ざけるようユーザーに促す「画面からの距離」という機能も追加される。
どちらの機能も、場合によっては機器の利用率を下げる可能性があり、機器への依存度がそのまま売り上げにつながる他のIT企業があまり積極的に取り組まなさそうな技術だ。そもそもビジネスモデルの異なるAppleだからこそ、利用時間よりも利用者のウェルビーイング重視で取り組める機能だとも言える。
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