NVIDIAの測定デバイス「PCAT2」で最新GPUから旧モデルまで消費電力を測って分かったこと(後編):最新GPUはやはり「ワッパ」良好(1/3 ページ)
NVIDIAは、グラフィックスカード(GPU)の消費電力をリアルタイムに測れるデバイス「PCAT」を提供している。今回、PCI Express 4.0に対応した第2世代製品(PCAT2)を試す機会があったので、実際にベンチマークテストを実行しつつ、GPUの消費電力をチェックしていく。
PCゲームファンにとって、NVIDIAは注目すべきGPUメーカーだ。そんな同社は、開発者向けにグラフィックスカードの消費電力を計測するハードウェア「NVIDIA PCAT(Power Capture Analysis Tool)」を提供している。前回の記事では、その第2世代製品(PCAT2)の概要と、実際にセットアップする様子をお伝えした。
前編のセットアップで、ある意味クライマックスを迎えたような感もあるが、本記事(後編)ではPCAT 2を使ってグラフィックスカードの消費電力を測っていく。
ベンチ実行中のグラフィックスカードの消費電力を計測してみよう!
5つのグラフィックスカードで“どのように”消費電力を計測するか――せっかくなので、計測結果から興味深い“傾向”を見いだしたいところである。
今回試すグラフィックスカードは登場年が異なるし、メーカーも二大巨頭であるNVIDIAとAMDのものだ。となると、同一シーンで同一設定のゲームグラフィックスを描画させることで、アーキテクチャの違い、メーカーの違いによる性能特性の相違……など、消費電力と共に面白い傾向が分かるかもしれない。
ということで、今回は実際のゲームタイトルをベースとするベンチマークテストアプリを実行して、消費電力を測っていこうと思う。なお、計測するグラフィックスカードは以下の通りだ。
- NVIDIA GeForce GTX 1080
- NVIDIA GeForce RTX 4090
- AMD Radeon RX Vega 64
- AMD Radeon RX 5600 XT
- AMD Radeon RX 6900 XT
対応する接続バスはPCI Express 3.0と4.0のものが混在しているが、今回のテスト環境はCPUの都合から、全てPCI Express 3.0接続となっている。この点はご容赦いただきたい。
まずスクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(FF15ベンチマーク)」と、カプコンの「STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール(スト6ベンチマーク)」を使って消費電力を測ってみよう。測定時の設定は、以下のように統一している。
- FF15ベンチマーク
- 画質設定:高品質
- 描画解像度:フルHD(1920×1080ピクセル)
- ウィンドウモード:フルスクリーン
- スト6ベンチマーク
- 画質モード:HIGHEST
- 描画解像度:フルHD
- ウィンドウモード:ボーダレスウィンドウ
- 最大フレームレート:120fps
FF15ベンチマークの結果
まず、FF15ベンチマークの結果を見てみよう。縦軸は消費電力(W)値を表し、横軸は時間進行を表す。横軸の一目盛りは0.1秒(100ミリ秒)となっている。PCATの測定サイクルが0.1秒単位となっているためだ(正確には計測サイクルのデフォルト値が0.1秒単位で、設定の変更は可能である)。
グラフは非常に細かくなっているので、画像をクリック(タップ)して拡大して見てほしい。
FF15ベンチマークは、従来の「ラスタライズ法」によるレンダリングにのみ対応しており、「リアルタイムレイトレーシング(RT)」には対応していない。それでも、近年に公開されたベンチマークアプリの中では高負荷タイプに分類される。
今回の実験の主題ではないが、まずはベンチマークのスコアから考察していこう。ハイエンドクラスの上位2つのGPU(Radeon RX 6900 XTとGeForce RTX 4090)が優秀なスコアを収めているのは「まあ、そうだよね」という感じだが、他の3つのGPUのスコアが混沌としているのは興味深い。
まず、Radeon RX Vega 64は理論性能の高さの割にスコアが少し奮わない一方で、ランク的には下だがより新しいRadeon RX 5600 XTの方がスコアが高いことに興味がそそられる。
もしかすると、この結果は「ROPユニット数×動作クロック」で表されるピクセルフィルレートの差に起因するかもしれない。Radeon RX 5600XTは、理論性能値こそRadeon RX Vega 64には全然及ばないものの、ピクセルフィルレートはRadeon RX Vega 64を上回っているのだ。
そして、古いモデルながらGeForce GTX 1080が健闘しているのも興味深い。
続いて、PCATの“本題”である消費電力について見てみよう。
平均消費電力が最も高かったのは、意外かもしれないがスコア的にもあまり芳しくなかったRadeon RX Vega 64の188Wだった。逆に、スコアが比較的高かったGeForce GTX 1080は平均消費電力が135Wと低めで、1ワットあたりのパフォーマンス(俗に言う「ワッパ」)が良好だった。
Radeon RX 5600XTはミドルレンジのグラフィックスカードだが、先代の最上位であるRadeon RX Vega 64よりもスコアが高く、それでいて消費電力は控えめなので、こちらもワッパに優れているといえるだろう。
ハイエンドの2製品、Radeon RX 6900 XTとGeForce RTX 4090を見比べると、最大消費電力に差は見られるが、平均を取るとほぼ同等である。しかも、下位の3つのGPUに対して“微増”程度の消費電力で、40%以上高いスコアをマークしている。
新世代GPUのワッパの高さは恐るべし――そんなところだろうか。
スト6ベンチマーク
続けて、スト6ベンチマークの結果を見てみよう。
2023年6月に発売されたばかりの「ストリートファイター6(スト6)」は、前作の「ストリートファイターV(スト5)」よりも確実に高負荷なグラフィックス処理が実装されている。ゆえに、かつてはスト5を問題なく動かせていたPCであっても、スト6では“力不足”が多くなることが予想された。そのため、改めてベンチマークアプリが公開されたのだ。
スト6ベンチマークは大きく3パートに分かれている。最初に、通常のバトルモードに相当する「ファイティング・グラウンド」のテストが行われ、次にメタバースのような様相のコミュティモードに当たる「バトル・ハブ」、最後にアクションRPGのような「ワールド・ツアー」のテストが行われる。各テストモードの結果は、平均フレームレート(fps)として算出され、それぞれのレートを見て、「快適に遊べるかどうか」の診断を100点満点で下す。
なお、ファイティング・グラウンドは最大60fps、バトル・ハブとワールド・ツアーは最大120fpsで実行される。なので、ファイティング・グラウンドだけはPCやGPUの性能にかかわらず最大60fpsとなることは注意願いたい。
さて、ベンチマークのスコアを見ていくと、スト5を動かす分には何の問題もなかったGeForce GTX 1080が、基本ゲームモードである「ファイティング・グラウンド」モードでも苦戦しているのが見て取れる。一方、今から見れば型落ちとも思えるミドルレンジのRadeon RX 5600 XTが善戦しているのが目にとまる。FF15ベンチでは成績が芳しくなかったRadeon RX Vega 64も、SF6ベンチでは面目を保った格好だ。
もちろん、Radeon RX 6900 XTとGeForce RTX 4090は、「さすがはハイエンド!」という貫禄で、全てのテストモードで余裕の高スコアをマークした。
続いて、平均消費電力の測定結果を見てみよう。驚かされるのは、GeForce RTX 4090の結果だ。ハイエンドだけに「電力爆食い」かと思いきや、平均消費電力を見るとダントツで小さいという結果に……!!
最初は「測定ミスかな? 品質設定ミスかな?」と思って何回かやりなおして見たが、結果は誤差程度の違いしかなかった。動作中の様子を観察したところ、SF6ベンチの動作中は冷却ファンが止まっていた。ビックリして「なんと!」と思わず叫んでしまったくらいだ。
どうやら、SF6ベンチはGeForce RTX 4090は負荷が低すぎて、冷却ファンを回転せずに動かせてしまうようである。スコア的にはRadeon RX 6900 XTが近いわけだが、その平均消費電力を比べるとGeForce RTX 4090は約半分で済んでいる。GeForce RTX 4090のワッパ、恐るべしである。
Radeon RX 5600 XTは、ベンチマークのスコア的には「ギリギリ合格」といった感じで、平均消費電力はGeForce RTX 4090の次に優秀という結果となった。これからSF6へ移行しようと考えている格闘ゲーマーは、AMD系GPUを選ぶなら「少なくともRadeon RX 5600 XT」と考え、これ以上のGPUを選べばOKそうだ。
ここまで来ると、「もっと負荷が重いとどうなるのか……?」という好奇心が沸いてくる。ということで、負荷のより大きいゲームベンチマークを実行してみよう。
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