AIが「重くて、遅い」パナソニックを「軽くて、速い」会社に変える 楠見グループCEOがこだわる創業者の「これではいかん!」:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(1/3 ページ)
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第17回は、パナソニック ホールディングスの楠見雄規グループCEOだ。
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パナソニックグループは、「地球環境への貢献」と「くらしへの貢献」を、グループ共通戦略に掲げている。同社の基本姿勢は、環境戦略と事業戦略は相反するものではなく、両立するものであり、そこに成長のチャンスがあると捉えている。
一方でパナソニックグループは、AIを積極的に利用する企業としても知られる。同社独自の「PX-AI」は、既に全世界17万人のグループ社員が利用し、業務の効率化だけでなく商品開発やサービス提供にもAIを活用している。パナソニック ホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「AIによって、『重くて、遅い』と言われるパナソニックグループを変えることができる」と、AIに期待する。
今回、PC USERの創刊30周年記念特別インタビューとして、同社の楠見雄規グループCEOに話を聞いた。まず前編では、同社の「環境」と「くらし」への取り組み、AI活用の現状と期待についてまとめる。
AIを積極的に活用しているパナソニックグループ
―― パナソニックグループでは、「地球環境への貢献」と「くらし(一人ひとりの生涯の健康・安全・快適)への貢献」を、グループ共通戦略に掲げています。パナソニックグループが「環境」と「くらし」を両輪としている理由を教えてください。
楠見 「環境」への取り組みでは、長期環境ビジョンである「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げ、2050年までに世界で排出されるCO2の1%にあたる3億トン以上のCO2削減インパクトの実現などを目指しています。
今のままでは環境破壊や温暖化がさらに進展し、私たちの子孫が豊かな暮らしをしたいと言っても、それが実現できないことになりかねません。パナソニックグループでは、物と心が共に豊かな理想の社会の実現を目指しています。しかし、気候変動に伴う自然災害などが暮らしに影響を与えており、この使命を全うするどころか、地球上で暮らしていくことができるのかといった状況にすらなっています。
パナソニックグループでは、最優先の経営課題として事業において地球環境問題の解決に取り組むこと、つまり我々の世代の使命として、地球環境問題の解決を加速しなくてはなりません。また、効率的なCO2排出削減が、これからの企業競争力を形作る要素の1つになるのは明らかで、課題を解決するだけでなく対価を得ることにもしっかりと取り組んでいきます。
パナソニックグループでは、「削減貢献量」の社会的意義や、標準化の必要性に関する議論についても先導する役割を担っています。削減貢献量は、製品やサービスを導入しなかった場合と、導入した場合のCO2排出量の差分を指した数値であり、企業の脱炭素貢献を適切に評価するモノサシとして意義があると考えています。
具体的には、各種のバッテリーソリューションや水素燃料電池、A2W(Air to Warter)など、化石燃料を電気に置き換え、電気を作るところも再エネ由来にすることで、CO2の削減に貢献できると考えています。
環境においても重要なのは競争力であり、環境だから何でもかんでもやるというのではなく、他社以上に力を発揮できるソリューションに集中し、リソースを投下していく考えです。私は、Panasonic GREEN IMPACTの実現が、地球環境問題の解決とグループの成長を両立させるものになると確信しています。
一方で、「くらし」の領域では、パナソニックグループが、安全で信頼を提供できる企業となり、家族や社会にとって欠かすことができない存在になることを目指しています。この取り組みは、まだ緒についたばかりです。
それぞれのハードウェア商品を進化させていくことや、快適かつ安全に使っていただくための工夫も必要ですが、さらに、お客さまが多様化する中で、お客さまにどう寄り添っていくのか、ということを改めて考える必要があります。
しかも、「寄り添う」といった観点での精度を高めていかなくてはなりません。お客さまが目指す生き方や過ごし方を理解し、家電を始めとした生活に必要なものや、生活を支援するサービスなど、くらしに必要なあらゆるものを最適な形で調和させ、家族の健康と幸福を実現することを目指さなくてはなりません。そのためには、AIを筆頭に最新技術を活用することが不可避だといえます。
―― パナソニックグループは、AIを積極的に導入している企業として知られています。2023年2月から、事業会社であるパナソニック コネクトが、先行する形で生成AIである「ConnectAI」を導入し、同年4月には全社規模で「PX-AI」の導入を開始しました。今では全世界で約17万人のパナソニックグループ社員が、PX-AIを利用しています。このとき、楠見グループCEOはパナソニックグループへのAI導入を即決したと聞いています。
楠見 AIをやるといっても、OpenAIに対抗して、モデルを開発するわけではありません。パナソニックグループのスタンスからいえば、いいエンジンを選び、いかに使いこなすかが大切になります。
ただ、今のAIは正しい知識を持っているのか、正しく回答できるのかという点で課題があります。しかし、この精度は高まっていくことになるでしょうし、AIがこのまま進化していけば、過去の知識に基づく判断という点においては、人間以上に正確になる可能性があります。
AIが得意なところはAIに任せて、人はAIにはできないことに集中しないといけません。そういうことができるようになった組織や集団が、一歩も二歩も抜きんでることになります。AIによって、人の数が数分の1で済むようになるという話もありますが、AIの効果は人減らしではなく、効率性を高めて仕事ができ、新たなものを創出できるようになるという点です。
お客さまに対するサービスも、もっと一人ひとりに寄り添うことができ、ハルシネーションなどの課題が解決すれば、さらに効率的に、もっと正確に対応できるようになります。AIを活用して、人や家庭に寄り添ったウェルネスサービスを進化させることができると考えています。
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