「テクノロジーが前面に出すぎていた」――アイロボットジャパン新社長が語る、ルンバ復権への“原点回帰”:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(1/3 ページ)
ポストコロナ時代に入り、業界を取り巻く環境の変化スピードが、1段上がった。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行さんによる経営者インタビュー連載は、アイロボットジャパンの後編だ。
米国連邦倒産法11条(チャプター11)の手続き開始と共に、中国のShenzhen PICEA Robotics(杉川机器人)およびSantrum Hong Kong(PICEA Roboticsの子会社)による買収が発表されたiRobot。
だが、この新体制が始動することで、日本法人であるアイロボットジャパンの山田毅社長は、「日本でのアイロボットのビジネス成長を、さらに加速することができる」と意気込む。
今回の山田社長へのインタビュー後編では、大きな転機を迎えるアイロボットジャパンの新たな成長戦略や、2025年11月1日に就任した山田社長の経営手法などについて聞いた。
チャプター11は「アクセルを踏む好機」
―― 2025年11月1日に、アイロボットジャパンの社長に就任しました。社長就任の打診はいつだったのですか。
山田 正式に打診をもらったのは、2025年の夏です。ここ数年を振り返ると、コロナ禍による巣ごもり需要ではルンバの販売が大きく伸びましたが、2023年になると特需の反動もあり、取り巻く環境は非常に厳しくなりました。
この荒波を乗り切るまでは、前社長の挽野(挽野元さん=2026年1月31日まではシニアエグゼクティブアドバイザー)が社長として経営をリードし、しかるべきタイミングでのバトンタッチをするのが最適だと考えながら、2025年年末までには実行する予定としていました。
私自身、2023年に副社長に就いて挽野の経営をサポートする立場になり、米本社とも今回の社長人事については事前に話をしていました。この時期の社長交代は、アイロボットジャパンにとっては想定通りのタイミングだったといえます。
米本社ではチャプター11の適用や、PICEAによる買収という大きな転機を迎えていますが、私は、これによって日本におけるアイロボットのビジネス成長を、さらに加速することができると考えています。アクセルを踏めるタイミングでの社長交代だと認識しています。
―― 挽野前社長からバトンを引き継ぐにあたって、何か言われたことはありますか。
山田 「がんばれよ」とは言われましたが(笑)、私の社会人生活では、最も長い期間、直接の上司という存在でしたので、日々メッセージをもらい続けていたと思っています。挽野は、パートナーや社員に対してはとても丁寧な接し方をするため、その点は引き継ぎたいですね。
私は、挽野から社長のバトンを受け取るのが「使命」であるとも感じていました。というのも、まだ当社の日本法人がない2015年にiRobotに入社し、当時は日本でアイロボットの販売を行っていたセールス・オンデマンドに、アイロボットの社員として初めて参加し、2017年には日本法人の設立と共に役員に就任しました。
日本法人の設立に合わせて社長に就任した挽野と共に長年一緒にやってきた中で、大きな転換を迎えている今、私がアイロボットジャパンの社長を引き継ぐことが、社員が一番安心するのではないかと思っています。
―― 山田社長が捉える「アイロボットらしさ」とはどこにありますか。
山田 アイロボットがこれまで追求してきたのは、お客さまの生活を良くするためのモノ作りです。新しいテクノロジーを追いかけ続けるとか、競合を意識した製品作りをするといった企業ではなく、お客さまのことを考えたモノ作りが最優先され、そこに新たなテクノロジーを活用したり、新たなチャレンジがあったり、場合によってはそこに遊び心を加えて製品を作り続けてきました。
私が感じる「アイロボットらしさ」とは、「人」を思うことを中心とした企業だということです。ミッションに「Empower people to do more.」を掲げているように、アイロボットはお客さまや社員、パートナーといった「人」を大切にする企業であり、それを基軸にビジネスを行っています。
―― 山田社長が率いるアイロボットジャパンの特徴も「人」になるのですか。
山田 お客さまを中心に物事を考えていきたいですね。実は、最近のアイロボットの製品の進化はテクノロジーが前面に出すぎてしまって、お客さまが中心でなくなってしまっているのではないかという反省があります。
競合を意識するあまり、競合の製品にはこの機能が付いているから、アイロボットでも同様の機能を備えなくてはならない、あるいは新たなテクノロジーができたから、それを新たな機能として追加するといった発想でモノ作りをしてきた傾向がありました。
その結果、お客さまを置きざりにした製品の進化になっていたのではないでしょうか。かつてのアイロボットは、そういう発想でのモノ作りは一切してこなかった企業です。お客さまの掃除体験を豊かにしたいという点を重視し、お客さまが欲しいと感じている製品はどんなものなのかということを考えてきました。
特に日本市場においては、お客さまの要望や使い方を捉えた訴求をしていくことが大切だと思っています。アイロボットジャパンを、よりマーケティングドリブンの会社にしていくことが私の役割だと思っています。
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