「テクノロジーが前面に出すぎていた」――アイロボットジャパン新社長が語る、ルンバ復権への“原点回帰”:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(3/3 ページ)
ポストコロナ時代に入り、業界を取り巻く環境の変化スピードが、1段上がった。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行さんによる経営者インタビュー連載は、アイロボットジャパンの後編だ。
データが示すロボット掃除機“キャズム超え”の必然
―― 社員とのコミュニケーションではどんな点にこだわっていますか。
山田 社長就任直後から「GM日記」を開始し、社内に配信しています。自分の言葉で日々の仕事で感じたことを率直に記したり、私が何を考えているのかということを伝えたりしています。高尚なことをいうよりも(笑)、社員と心を通わせたいという狙いが強いですね。
また社長室を撤廃し、社員と同じ場所で仕事をしています。これも社員とのコミュニケーション強化につながると思っています。今は出社日は決めていないのですが、2026年からは全員が出社する日を決めて、同じ志を持った社員同士が直接会って、お互いにパワーを共有し合える環境を作りたいですね。
アイロボットには、行動指針として「Builder's Code(ビルダーズ・コード)」があり、その中に「Have each other's backs」という言葉があります。お互いに背中を支え合いながら、相手のために何ができるかということを考えて行動する文化が、アイロボットの中に根づいています。この文化をもっと浸透させていきたいと思っています。
―― 「GM日記」ということは日記ですから、毎日配信しているのですか。
山田 いや、不定期です(笑)。犬の散歩をしながらスマホに録音して、テキストに起こして配信をしています。なるべく私の素をみせたいと思っていますから、リラックスした環境で出てきた言葉を配信するようにしています。
―― 経営トップとして、時間を割きたいと思っている点はどこですか。
山田 今は戦略立案の部分ですね。海外では、オンライン販売が大半を占めるという状況にありますが、日本の市場の特徴はオンラインとオフラインの販売比率がほぼ半々です。
また日本では量販店の数が多く、オンラインでも複数のサイトがあり、世界的にも珍しい市場構造となっています。競合他社は特定のオンラインサイトや量販店と連携したビジネスを行っていますが、アイロボットジャパンでは全てのチャネルを通じて販売を行い、さらにサブスクリプションモデルでの販売提案も行っており、購入できるチャネルの選択肢を広げています。
ここまでカバーし、全てのチャネルでフルアクセルを踏める体制を敷いている企業は他にはありません。この強みをどう生かすかというところに時間を割きたいですね。
また、全てをお客さま中心の発想に戻すことにも徹底して取り組みます。これはビジネスの根幹です。原点回帰をしっかりとやっていきます。
さらに、2年後~3年後のアイロボットジャパンを、どんな企業にするのかといったこともしっかりと描いていきたいですね。ロボット掃除機だけの一本足経営では不安定ですから、ポートフォリオをどう広げ、日本における存在感をいかに高めてくのかということを考えていきます。
―― 将来に向けた布石では、どんなことを考えていますか。
山田 例えば、ロボット掃除機の事業はB2Cが中心ですが、これをB2Bに展開することで、より多くの方々にアプローチすることができるようになります。
日本において、2030年にロボット掃除機の普及率を20%にまで引き上げるという目標は、決して高い指標ではないと思っています。
というのも、今の10%という普及率にとどまっているのは日本だけなんです。既に20%を超え、中には3割~4割というケースもあります。日本では、普及率が圧倒的に低いといえる状況ですし、見方を変えれば海外と同じ水準の普及率に到達する可能性が十分あるわけです。
では、日本でそこまでの普及率に至っていない理由は何かというと、その1つが日本の家庭に響く提案ができていないという点です。実は、都内に在住している年収600万円以上の40代/共働き世帯といった切り口では、ロボット掃除機の普及率は30%を超えているという結果が出ています。
特定の条件のユーザーにはロボット掃除機がマッチしているのですが、その一方でマッチしていない家庭に対しては、どんな製品やサービスを提供していくべきなのかを考える必要があります。
今のラインアップでは、日本のあらゆるユーザーのニーズにはマッチしないことは分かっているわけです。では、どんな製品が必要なのか。この答えを2026年からお見せします。新規のお客さまを獲得することと同時に、既存のお客さまにもリピーターになっていただくことが、普及率を高めるためには必要です。ルンバがなくては生活ができない、といってもらえるファンを増やしていきたいですね。
―― 2026年はアイロボットジャパンにとって、どんな1年になりますか。
山田 2025年は、荒波の中を社員全員で泳ぎ切った1年でした。そして、2026年は、松下幸之助さんの言葉を借りると、「日に新た」になります。新たなことに取り組み、新たな価値を提供していくことになります。
2026年は挑戦の1年になります。今以上に、お客さまの役に立つことができる製品を取りそろえたいと思っていますから、ぜひアイロボットジャパンの挑戦を楽しみにしていてください。お客さまを中心にした取り組みを加速していきます。
関連記事
「秘伝のたれ」を捨て、ルンバは生まれ変わる――iRobotチャプター11申請も「ワクワクしかない」とアイロボットジャパン新社長が語る理由
コロナ禍以降、さまざまに移ろう世界情勢の中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行さんによるインタビュー連載の第20回は、米本社が連邦倒産法11条(チャプター11)を出したばかりのアイロボットジャパン 代表執行役員社長の山田毅さんだ。Roomba(ルンバ)で知られる米iRobotが「米連邦破産法第11条」を申請 中国PICEA Groupの傘下で経営再建へ
ロボット掃除機「Roomba」で知られるiRobotが、あらかじめ準備を進めていた米連邦破産法第11条(Chapter 11)を適用し、中国企業傘下での経営再建を図ることになった。順調に進めば、2026年2月に手続きは完了するという。“掃除=ルンバ”の構図を定着できるか? アイロボットジャパン社長が語る、新・最上位モデルの狙い
アイロボットジャパンのロボット掃除機「Rommba(ルンバ)」のフラグシップモデルが刷新された。これにより“新生Roomba”のラインアップは完成することになる。同社の狙いをまとめた。ロボット掃除機市場はまだまだ伸び代がある 「2030年までに国内掃除機の20%に」 挽野社長が語る「4つの力」
ポストコロナ時代に入り、業界を取り巻く環境の変化スピードが、1段上がった。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行さんによる経営者インタビュー連載は、アイロボットジャパンの後編だ。iRobotコーエンCEOが来日 ロボット掃除機「ルンバ(Roomba)」の新ラインアップを紹介 企業継続への不安は「心配無用」とアピール
アイロボットジャパンが、ロボット掃除機「ルンバ(Roomba)」の新製品を一挙に投入した。親会社の米iRobotのゲイリー・コーエンCEOも登壇し、新製品の特徴を解説しつつ、同社の「継続企業の前提」について心配無用であることをアピールした。アイロボットがロボット掃除機「ルンバ」新モデル6機種を一挙投入
アイロボットジャパンは、同社製ロボット掃除機「ルンバ」のラインアップを一新、計6機種の販売を開始する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.