ミュンヘン市はなぜ再びオープンソースソフトウェアへ回帰するのか? 脱Microsoftを巡る欧州の最新事情:Windowsフロントライン(3/3 ページ)
ドイツのミュンヘン市が、かつて断念したオープンソースソフトウェア(OSS)の活用へと再びカジを切っている。欧州各地で進む「脱Microsoft」の動きはどうなっているのか。技術的課題と政治的背景が交錯するミュンヘン市の事例から、行政システムにおけるOSS活用の現在地を読み解く。
ミュンヘン市以外のOSS事情
行政当局がOSS戦略を積極推進している事例として、他に知られているのが北部ドイツのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州(Schleswig-Holstein)だ。位置的にはデンマークのあるユトランド半島の付け根の部分にあたる。
3万台規模のPCクライアントをLinuxに移行する計画だ。2021年後半にLinux+LibreOfficeへの約2万5000台の移行計画を発表し、2024年に3万人におよぶ職員のPC環境の移行を決定している。
興味深いのは、LiMuxで失敗した点をよく研究した上で脱Microsoftを実行している点で、ミュンヘン市がまずLiMuxを全台配布してから個別対応という形で合わせて行こうとしたのに対し、同州ではまずオフィススイートをWord/ExcelからLibreOfficeに移行するにあたってWindows環境で作業を進め、文書形式をODFへと統一し、まず文書フォーマットの互換性問題をつぶしたところからスタートしている。
次にExchange/Outlookで構成されていたメールとグループウェア環境を、ThunderbirdやOpen-XchangeといったOSSベースのものへと置換し、基本的な業務アプリケーションを2025年の段階で8割ほどのクライアントで置き換えに成功している。
次に問題となる認証基盤をActive DirectoryからOSSのID管理環境へと移行し、システムレベルでのベンダー依存をなくし、最終的にクライアントOSを順次Linuxに切り替える戦略を採っている。つまり、将来的に発生が予想される問題を先回りしてつぶしているわけだ。
本稿執筆の2026年後半時点で、まだOSの移行は進行中の段階だが、LiMuxで問題となった「独自ディストリ作成によるバージョンアップの遅れ」を回避すべく、自前でディストリビューションを構築することは避け、既存のエンタープライズ向けLinuxディストリビューションを“複数”選択し、試験的に展開している。
これにより、特定のディストリビューションへの依存も防げ、発生した問題やバグはコミュニティにーコードを還元(アップストリーム)することで、OSSに貢献しつつ、バージョンアップ問題を1つの組織で抱え込まないことに徹している。
一方で、2025年半ばに話題になったデンマークでの「脱Microsoft実証実験」が終了したという報道があり、ひそかに話題になっている。
原文はデンマーク語で書かれたComputerWorld.dkの記事だが、後に同件を紹介したXDAによれば、その後に当事者であるCollaboraが、記事の内容に関して異議を申し立てるコメントを出している。
状況を整理すると、デンマークのデジタル化省(Digitaliseringsministeriet)は、2025年半ばにオフィススイートをMicrosoft Officeからオープンソースベースのものに切り替えると発表し、行政文書管理システム(cBrain F2)と連携するエディタとしてLibreOfficeベースのWebスイートである「Collabora Online」を導入し、その代替検証を行うという話だった。
シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州のケースと似ているが、まずはごく小規模(対象職員38人とされている)でスタートしての検証となっている。ただ2026年10月に入ってComputerWorldが報じた情報によれば、他省庁から送付されたWord文書が白紙状態になったり、テンプレートの崩れや変更履歴、フォントの不整合が発生し、いろいろ問題が重なった結果、ひっそりとパイロット運用が終了したという。
ただし、Collaboraの反論によれば、これら問題は既に解決済みで、今回の件も終了ではなく「担当者の人事異動による(実証実験)一時中断」だという。XDAによれば、この反論はあくまでCollabora側の主張によるもので、現在はデンマークのデジタル化省側のコメント待ちの状態だという。
特に欧州方面では、米国の特定1企業に依存する体制への警戒から代替手段としてのOSSに注目が集まっており、実際に前段までの例のように実証実験や実導入を含むプロジェクトに進んでいるケースが多数ある。
しかし、現場や現実を無視しての一方的なOSS推進はLiMuxでの失敗の後追いとなるだけで、これを反面教師としてさまざまな対策を講じているのが実際だ。
ポイントとしては2つあり、Microsoft 365のようなクラウド前提の製品においてGDPRのような欧州のデータ保護規則をクリアできるかということ、そして特定ベンダーによる一方的な価格拘束を防ぐための価格交渉材料としてのOSSの選択肢という存在だ。
実際、こうした観点からOSSの優先原則を掲げている国はイタリアやフランスなど複数あり、先ほどのミュンヘン市の連立協定書にある「Public Money, Public Code.」はEU全体を対象にした宣言でもある。
Collaboraが話題になったデンマークにおいても、自治体ITにおいては「脱Microsoft」というよりも「けん制材料としてのOSS」を強く打ち出しており、こうした動きは首都のコペンハーゲンで見られる。
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