ミュンヘン市はなぜ再びオープンソースソフトウェアへ回帰するのか? 脱Microsoftを巡る欧州の最新事情:Windowsフロントライン(2/3 ページ)
ドイツのミュンヘン市が、かつて断念したオープンソースソフトウェア(OSS)の活用へと再びカジを切っている。欧州各地で進む「脱Microsoft」の動きはどうなっているのか。技術的課題と政治的背景が交錯するミュンヘン市の事例から、行政システムにおけるOSS活用の現在地を読み解く。
結局、LiMux vs. Microsoft製品の何が問題だったのか
独自のLinuxディストリビューション「LiMux」における問題は、他所とやりとりされるファイルの互換性などもさることながら、OSの更新や検証が世界の動きに取り残された点が大きい。
独自のディストリビューションである以上、自前で修正パッチを当てたりパッケージ管理を行わねばならず、本来のフォーク元である上流(Debian/Ubuntu)からも動きが乖離(かいり)し、アップデートの検証コストが肥大化してしまっている。
結果、FirefoxやThunderbird、LibreOfficeといった日常的に使うアプリのバージョンアップ検証が追いつかず、旧バージョンのまま放置されることが常態化した。そして、閲覧できないページが出現したり、PDFを含む文書フォーマットが崩れたりするといった問題が噴出し、先ほどのライター氏の批判にあるような不満が職員の間で聞かれるようになった。
昨今の急増する不正アクセス事例をみるに、このアップデートの長期放置は非常にまずい状態で、加えて技術トレンドの変化が激しい中で不良資産を抱え込み続けるのは後々の負担をより大きくする。
いずれにせよ、「全てを自前で」というのはITの世界では大きな覚悟が必要であり、少なくとも当時のミュンヘン市にはそれをハンドルできるだけの力量が足りなかったのは間違いない。
問題はこれだけでなく、LiMux+LibreOfficeへの移行前にMicrosoft Officeで蓄積された大量のVBAマクロが存在し、これが業務システムとして機能していたことで移行の妨げとなった。
いわゆる「シャドーIT」だが、これはLiMuxの問題というよりも、市のIT部門が抱える問題だったといえる。加えて、ドイツの行政に特化した専門の業務パッケージソフトウェア(Fachverfahren)の多くがWindows+Active Directory上で動作することを前提としており、当然ながらLiMux環境では動作しない。
そのため、Citrixのリモート接続や仮想デスクトップ環境でWindowsを動作させる二重投資かつ二重運用が行われていたので、非常に非効率だったことが挙げられる。
ここでAccentureの報告書の話題が再び出てくるが、実際のところ、2017年のMicrosoft製品への切り替え宣言に際しては、これらLiMuxの問題とWindowsの優位な点の都合のいい部分だけを切り取って利用された面が大きい。いくらAccenture自身がMicrosoftのパートナーとして製品ディストリビューターを兼ねていたという批判があったとしても、報告書で指摘された問題の本質の部分が軽視されていた点は見過ごせない。
結果として、同年の契約で2023年まで続く「WindowsとMicrosoft Officeへの全面移行」プロジェクトが立ち上がってしまったが、本来、報告書で指摘されていた重要なポイントは次のようになる。
- 市の中央IT組織として「it@M」が存在していたが、各部局への統制権限や拒否権がなく脆弱(ぜいじゃく)で、結果として部局ごとにIT方針が決定され、IT地方分権の常態化による強烈な縦割り(サイロ化)構造ができていた
- ITに関する不満は全てLiMuxとit@Mにぶつけられ、問題の本質を見ずにLiMuxとは直接関係ない事案までその原因とされていた
- 同時に管理しなければいけない複数のOSバージョンの乱立。前述のLiMuxとWindowsの併存のみならず、LiMux時代の複数のリビジョンが存在した
- 市の独自リポジトリ管理によるパッケージングのため、現場への最新版配布が数年単位で遅延
- 「WollMux」という、LibreOfficeに公文書テンプレートや差し込み印刷を行う独自拡張があり、市の公文書が全てこれに依存していたため、LibreOfficeのバージョンアップにおける最大のボトルネックになっていた
重要なのは、Accentureの報告書では「全端末をWindowsにすべき」とは一言も言及していない点だ。
一連の問題提起から分かるように、IT組織の権限不在や調達プロセスの不透明化が根本であり、次に混乱の原因となっている「全クライアントをLiMuxにする」という方針を止め、必要に応じてWindowsも選択肢に含めるべきとまとめている。
つまり、必要な権限や方針をIT組織に与えないままLiMux全面移行を推進した結果、それを維持することが困難となり、結果としてMicrosoft製品をプッシュする勢力に付け入るすきを与えたというのが2017〜2023年にかけて起きた現象だ。
ZDNETでのレポートにあるように、ドルンハイム氏は講演で次のように語っている。
「Open source in the public sector doesn’t fail because of technical issues. It mostly fails because it’s not aligned with the political agenda.(公共部門におけるオープンソースは技術的問題で失敗するのではない。政治的なアジェンダと一致していないから失敗するのだ)
技術の善しあしではなく、それを使う組織の問題であったり、政治的事情によって方針が二転三転することで本来の役割を果たさずに失敗の烙印(らくいん)を押されてしまうのだろう。
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