Apple Watchにできることは31年前の腕コンと変わらない:“ゼロハリ”竹村教授のつれづれスマートウォッチ(前編)(2/2 ページ)
膨大なデジタルガジェットを衝動買いしてきたゼロハリ教授が考える、Apple Watchをはじめとする現代のスマートウォッチに“必要なもの”とは。
始まりは31年前の“腕コン”から
時代を問わず、人は自分の意志を誰かに伝えたい、後世まで伝えたいという強い欲求を持っている。この欲求が言葉になり文字になり、絵になり、現代のICTという世界にまで継承している。現代を生きるデジタルガジェットアナリストは、ほんの数年前のことにだけに関心が向いているが、スマートウオッチという新しいガジェットの未来を考えるなら、まずは四半世紀くらいまでの過去から振り返って考察するのが実は一番の近道だと思う。
私(竹村氏)が、生まれて初めて買ったスマートウオッチ的な製品は、31年前の1984年にセイコーSIIが発売した「セイコー腕コン」(腕時計コンピュータ)と呼ぶ「UC-2000」小さいけれどまさにコンピュータそのものだった。物理的なキーボードは外付けで提供し、BASIC言語を入力できるだけでなく、腕コンでプログラムの実行が可能だった。もちろん、ごく普通のデジタル腕時計としても働いてくれた。
1984年といえば、IBM PC/ATという世紀のベストセラーPCが出荷した年だ。PCが1セットで200万円前後した時代に、腕コンは本体のUC-2000リスト部で1万9000円、キーボードとプリンタを内蔵したUC-2200コントローラで2万9800円、キーボードのみのUC-2100キーボードが6000円だった。それでも当時は高価ではあるが縮小技術や発想は極めて画期的な製品だった。
その10年後の1994年には1万円前後という低価格で多くのユーザーが購入したTimexとMicrosoftによる企画開発「DataLink」という腕時計 PCが登場した。DataLinkは管球式ディスプレイのフラッシュするモールス信号の様なデータを、腕時計の文字盤上に取り付けたカメラで読み取り、PCで管理しているスケジュールデータや電話番号を転送して利用する仕組みだった。
1998年にはSII社が、世界の「腕コン」の“レジェンド”ともいえる腕時計コンピュータ「Ruputer」(ラピュータ)を発売した。それほど安くはなかったが、私は通算で最低でも3台は買ったと記憶している。今、考えても悔やまれるのは限定のスケルトンモデルを誰かに譲ってしまったことだ。
この1984年〜1998年までを「腕コン・第一世代」としよう。そして、ユーザーが盛り上がる割に売り上げが増えない腕時計コンピュータは3年間ほど冬の時代を迎えることになる。DataLinkやRuputerは秋葉原のショップで5割引き、6割引きで売られ、いつしかガジェット系のマニアからも忘れ去られた。
しかし、スマートウオッチに限らず、デジタルガジェットをはじめとするコンシューマー向けIT業界は、忘れたころにまた同じことを繰り返す。苦い思いをした当時の担当者がどこかに行って誰も居なくなったのか、過去のことはきれいさっぱり水に流してしまったのか、今度こそ間違いないと勘違いして、“たぬきの皮算用”(それはビジネスモデルともいう)が成立したのか。
とにかく不思議な話だが、時代の要求で“スマート”と接頭語をつけただけの“腕コンピュータ”も、同じサイクルでこりることなく繰り返すことになる。
(後編では、2001年からはじまる“腕コン第二世代”の紹介から、いまのスマートウォッチが“同じ道”をたどらないために必要なことを考察します)。
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