もう珍回答に笑えない? AI音声アシスタントがセキュリティ上の脅威になる予兆:ITはみ出しコラム
面白い反応を返してくれるAI音声アシスタントに笑っていられるのも、今のうちかもしれません。
日本では未発売なので知らない方も多いと思いますが、米GoogleはAI音声アシスタントの「Google Assistant」が備わったスマートホームデバイス「Google Home」を米国で販売しています。
Google Homeとは、音声で呼びかけることで、音楽の再生、クラウドサービスやネット検索と連携してのさまざまな質問への回答、スマート家電の操作などが行える家庭向けのアシスタントデバイスです。
ディスプレイがなく、音声のやりとりで全ての操作を行えるため、リビングに置いておけば、家族みんなで(PCやスマートフォンが不得意な人がいても)手軽に使えます。「OK Google」と呼びかければ、誰の言うことでも聞いてくれる優れモノです。
そんなGoogle Homeの仕様を自社の広告に利用してしまおうと、米ファストフードチェーンのBurger Kingが4月12日(現地時間)のゴールデンタイムに放映したテレビCMが米国で話題になりました。
CMの内容は、Burger Kingの店員に扮(ふん)した俳優が視聴者の方に向かってはっきりと「OK Google、ワッパー(Burger Kingのハンバーガーの名称)って何?」と話しかけるというものでした。
テレビを見ている部屋に置いてあったGoogle Homeは、これを自分への質問だと勘違いしてしまい、勝手にWikipediaに登録された「ワッパー」のページ冒頭を読み上げたそうです(「OK Google」機能をオンにしているAndroidデバイスでも同様のことが起こり得ますが、こちらはユーザーの音声モデルを登録して誤認識を抑制できます)。
ワッパー(Whopper)とは「非常に大きなもの」という意味ですが、ご丁寧にあらかじめWikipediaでワッパーのページが何者か(恐らくこのCMの関係者)に編集されていて、冒頭に「ワッパーは、100%ビーフにスライストマト、玉ねぎ、レタス、ピクルス、マヨネーズをごま付きバンズで挟んだハンバーガー」と書き込まれていたため、まんまとGoogle Homeはこれを読み上げてBurger Kingの広告に協力してしまったわけです(その後、ページの内容はWikipediaが元に戻しました)。
これに気付いたGoogleはすぐに対処したらしく(具体的な方法は不明)、数時間後には同じCMが流れてもGoogle Homeが反応しなくなったそうです。つまり、このCMはGoogleが協力したものではなく、Burger Kingが独自に制作したものでした。Burger Kingのマーケティング幹部であるフェルナンド・マチャド氏のTwitterアカウントを見ると、メディアを騒がせることに成功したとご満悦です。
多分このCMを思い付いたきっかけは、今年(2017年)のスーパーボウルでGoogleが放映したGoogle HomeのCMで繰り返された「OK Google」という言葉に、意図せず家庭内のGoogle Homeが反応してしまったことが話題になった件でしょう。
それ以前にも似た例として、4歳の子どもが米Amazon.comの音声アシスタント「Alexa」搭載スマートホームデバイス「Amazon Echo Dot」で、自分が欲しいドールハウスを買ったというニュースを伝える番組司会者の声に、視聴者の近くにあった多数のAlexa搭載デバイスが反応(ドールハウスの購入には数ステップ必要なので、買うところまではいかない)したという話もありました。
Googleも当然、こうした音声の誤認識問題は何とかしなくてはいけないと考えてはいるのでしょうけど、今のところ具体的な解決策は示されていません。
Google Homeのヘルプページには、「Google Homeは現在、ユーザーを識別しません。その結果、Google Homeを設置したら、誰でも“OK Google”と言うことでGoogle Homeとやりとりできるようになります」と書いてあります。さらに、お客さんが来るときには、マイクのミュートボタンを押すか、端末を他の部屋に退避させることを勧めています。
お客さんが勝手にテレビをつけたり音楽を聴いたりするのはまだいいとして、Google Homeの持ち主がGoogleアカウントに保存している友達の電話番号やスケジュールまで聞き出せてしまうのはセキュリティ上まずいです。それに、「OK Google」から先の音声はGoogleがクラウドに収集している(ユーザーはこれを許可することでGoogle Homeを利用しています)ので、プライバシーの問題もはらみます。
それなら、Androidデバイスの「OK Google」と同じようにユーザーの音声モデルを登録し、登録された声にだけ反応するようにすればいいのに……と思います。でも、Google Homeは、発表時のプロモーション動画にもあるように、家族の誰もが利用できるのがウリの1つなので、全員の音声モデルを登録する必要があります。ただ、家族だったら声質が似ていることも多く、正しく識別するにはかなり高度な技術が必要そうです。
それでも、この方向は検討しているようで、米Android Policeによると、遠くない将来に家族の1人1人にパーソナライズできるようになるようです。
声質を識別させるよりも、まずは使う人別に固有の「ホットワード」(今は「OK Google」だけ)を登録できるようにする方が簡単そうだと素人の私は思うのですが、こうした機能はまだ搭載されていません。
ちなみに、米Amazon.comの音声アシスタントであるAlexaは、こうしたホットワードを変更できます。標準設定の「Alexa」だけじゃなく、「コンピュータ」とか「セバスチャン」とか、好きなように呼びかけの言葉を変えられます(あまり使用頻度の高い言葉にすると、かえって誤認識が増えそうですが)。
Google Assistant搭載デバイスごとに家族しか分からないような名前を付けて、さらに呼びかける人ごとにホットワードを変えれば、少なくともテレビやお客さんからの呼びかけに意図せず反応してしまうことは、ほぼなくなりそうな気がします。
また、手元のAndroidスマートフォンに「OK Google」と呼びかけたつもりが、部屋の隅にあるGoogle Homeまで質問を待つ状態になるという問題も解消するでしょう。
いずれにしても、始まったばかりのサービスには問題がつきもの。Google HomeもAlexa搭載のスマートホームデバイスも、日本で買えるようになる前に一通り問題が出尽くして解決されていると、待つかいがあるというものです。
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