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新iPadだけじゃない Appleが教育現場でGoogleと大きく違うこと本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

Appleはコンピュータシステムを用いたハードウェア製品の企業であり、Googleは検索エンジンをスタート地点にした広告事業の企業といえる。スマートフォンやテレビ向け端末などでも、そうした立ち位置の違いが垣間見えることが少なくないが、教育市場においては、さらに違いが明確になっている。

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 教師がどのような課題を与え、生徒がそれをいかにしてこなし、何の成果を得たのか。教師や生徒がどのようなコミュニケーションを取り、クラスのみんながどう行動していたのか。その履歴に価値を求める企業もあれば、あくまでもハードウェア端末とそれを取り巻くエコシステムにフォーカスしてビジネスをする企業もある。

 3月27日に米Appleは、米イリノイ州シカゴのプレップスクール(一流大学へ進学することを目的とした準備校)で開催したイベントにて、新しい9.7型の「iPad」を発表。新型iPadは前年モデルと全く同じ形状、重さながら、プロセッサが「iPhone 7」シリーズ相当の「A10 Fusion」にグレードアップされ、AR機能への対応やカメラのアップグレードなどのファインチューンを受け、さらに「Apple Pencil」に対応した。

ipad
新しい9.7型の「iPad」
SchoolTim Cook 教育市場向けの発表とあって、会場は米イリノイ州シカゴで最大級の公立高校であるレーン・テック・カレッジ・プレップ・ハイスクールの講堂だった(写真=左)。イベントに登壇する米Appleのティム・クックCEO(写真=右)

 iPadはビジネスパーソン向けに生産性を重視した「iPad Pro」へとシリーズを分岐させた後、2017年にはメインストリームのモデルを低価格化していた。そして2018年、iPad Proのみに提供されていたApple Pencil対応を盛り込んだ意図は、教育市場での巻き返しである。

 価格は329ドル(日本では3万7800円)からだが、学校向けには299ドル(日本では3万5800円)と設定することで、発表前日にGoogle主催のイベントで発表された台湾Acer製の教育向けタブレット端末「Chromebook Tab 10」(Chromebookが採用するChrome OSを搭載した初のタブレット製品、329ドル)よりも購入しやすいものとした。Apple Pencilも通常価格は据え置きだが、学校向け割引価格が用意される。

Chromebook Tab 10
台湾Acerの「Chromebook Tab 10」

 ここでは米教育市場で圧倒的な強さを見せてきたGoogleと、今回iPadをモデルチェンジしたAppleの、このジャンルに対するアプローチの違いに着目したい。

米教育市場で圧倒的なGoogle、対抗するApple

 Appleはコンピュータシステムを用いたハードウェア製品の企業であり、Googleは検索エンジンをスタート地点にした広告事業(突き詰めれば人々の行動を基にしたデータ活用事業)の企業といえる。

 スマートフォンやテレビ向け端末などでも、そうした両社の立ち位置の違いが垣間見えることが少なくないが、教育向けアプリケーションにおいては、さらにそのスタンスの違いが明確になっている。

 米教育市場におけるGoogleのシェアは圧倒的だ。

 英Futuresource Consultingの調査によれば、米国のK-12(幼稚園から高校3年まで)教育市場向け端末におけるGoogle製品(Chrome OS採用製品)のシェアは2016年の段階で58%だ。そして22%がWindows端末で、かつて教育向けに存在感のあったLinux端末はほとんどゼロに近い。そして残りの15%を切るぐらいの市場にAppleのiOS端末(iPad)が滑り込む。

Futuresource Consulting
K-12教育市場向けの年間出荷OSシェア(英Futuresource Consultingより)

 メーカー別シェアで比較するとiPadは上位に来るが、プラットフォーム別では劣勢。iPhoneが急成長して以降、唯一の苦戦し続けている領域が教育市場だ。無論、タブレット端末とクラムシェル型のキーボード付き端末では、その位置付けが違うともいえるが、Chromebookが教育市場で伸びたのには理由がある。

 まず、Chromebookはクラウド側でアプリケーションを動かすため、管理が極めて容易な点がある。教師も生徒も、自分のIDでサインインすれば、すぐに授業を始めることができ、自宅にあるPCなどの端末でも与えられた課題・宿題や配布物に目を通すことができる。端末側もクラウドへの窓として機能するだけであるため、シンプルで低コストだ。

 Gmailの拡張版として発展し、教育機関向けに「G Suite for Education」(Gmail、Google Documentなどおなじみの機能に加えて、課題制作と配布、進捗管理などを行うGoogle Classroomや、体験学習をサポートするVR機能などを統合したクラウドベースのアプリケーションスイート)を提供している。

 今回、Appleの発表でも、こうしたGoogleの教育向けサービスの枠組みに対応する何かが登場するのではないかと注目されていた。しかし、Appleはクラウド側のサービスではなく、端末上で動作するアプリの機能追加や管理用ツールの追加、機能強化、それにiOSのアップデートで対抗している。

 サービス側の唯一の変更は、無償提供される「iCloud」の容量が教職員および生徒・学生向けに限り、5GBから200GBに大幅増量されたこと。文書、素材や成果物、各生徒向けの設定などがiCloudに保存されるが、各種機能は全てクラウドからは切り離されているため、教師と学生が授業中、あるいは宿題をこなす際などに、どのように行動、やりとりをしたかについては、全て校内の無線LANを通じたプライベートな通信で行われる。

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