「HoloLens 2」が変える会議の「基盤」――生みの親キップマン氏に聞く:そろそろ会議やめませんか(2/2 ページ)
そもそも、会議の価値とは何だろう? 働き方改革の一丁目一番地にあたる「会議」にまつわるあれこれを、各所への取材を通じて探っていく本連載。2回目は、Microsoftの最新デバイス「HoloLens 2」の生みの親にコミュニケーションのあり方を聞いた。
ビジネスから遊びにまで広がる「仮想空間共有」の基礎技術
離れた場所に自分を顕現させるのがHoloLensの目的であり理想だとすると、もう1つ重要な要素がある。
それが「仮想空間の地図を作り、共有する」ということだ。
我々は同じ物理世界で生きている。目の前の風景は、誰にとっても同じ風景だ。
だが、それを離れたところから体感するには、「目の前に何があって、どんなレイアウトなのか」を伝える必要がある。CGで描かれた仮想の物体、例えば自分や、一緒に検討すべき資料などを見るには、その物体が「現実のどこに置かれているのか」という情報を知る必要がある。
現在のAR機器では、そうした情報は「機器の中」にある。だから、他の機械と「ARで見えているもの」を共有することができない。しかし、仮想空間の地図を共有することができれば、現実世界で同じものをみんなが見るように、仮想世界でも「みんなが同じものを見る」ことが可能になる。会議のようなコミュニケーションには、そうした要素が必須だ。
MicrosoftはHoloLens 2とともに、そういう地図をクラウド上に作り、複数の機器で共有する機能を発表した。それが、同社のクラウドインフラ「Azure」の機能のひとつである「Spatial Anchors」だ。
キップマン氏は、この技術が非常に戦略的に重要だと説明する。しかも、それを「クラウドを使って」実現することに意味がある。
キップマン:私たちの知性はどう動いているのでしょうか? 大半は「エッジ(自分の中)」です。目の前のボトルを取るとします。目に入ってくる光を認識し、素早く処理する必要があります。
(実際に目の前のペットボトルを手に取って)ここまでの時間は9ミリ秒。これをクラウドに回している時間はありません。だから、エッジでインテリジェントな処理をする必要があります。HoloLens 2にインテリジェントな間接認識機能を入れたのは、そのためです。
一方、クラウドではエッジよりも時間をかけても大丈夫です。データが返ってくるのに2秒かかったとしても、場合によっては許されます。精度も演算能力もどんどん上げて、空間を高い精度で処理するなら、クラウドがいいでしょう。
Spatial Anchorsでは、HoloLens 2のようなエッジデバイスでも、(iOSの)ARKitでも、(Androidの)ARCoreも扱えます。究極のAIを実現するならば、クラウドとエッジ、両方を用意する必要があるのです。
Spatial Anchorsは「基礎技術」です。これで永続的に使える、世界の空間地図を作ろうとしているわけではありません。あくまで、ユーザー単位でデータは分かれています。プライバシーを保つためです。
デベロッパーがこの機能を使って、非常に広い領域の空間地図を作ることはできるでしょう。しかしそれはあくまで、そのデベロッパーの選択です。当社を含めた他の人々が再利用することはできません。
Microsoftは、主にビジネスシーンでのコミュニケーション活性化と作業簡便化のためにHoloLensを開発している。工場や流通の現場など、同社が「ファーストライン・ワーカー」と呼ぶ人々を対象としている。
実際、ヘリコプターメーカーであるベルヘリコプターは、すでにHoloLensを導入している。「従来5時間掛かった作業は、HoloLensの導入によって3.5時間に短縮され、より精度も上がった」とキップマン氏は話す。コミュニケーションを含めた作業最適化は、企業にとって大きな要素だ。今年中にトヨタ自動車は、整備の現場に3Dマニュアルとして、HoloLens 2を導入する。
こうした変革は、ほんの一端だ。
そうした技術は、まさに「基盤」である。仕事の場だけでなく、ゲームにも生かされている。
キップマン:先日、我々のチームと「Minecraft」を開発しているMicrosoftゲームスタジオは共同で、「Minecraft Earth」を発表しました。このゲームでは、地球全体でMinecraftを楽しむためにSpatial Anchorsを活用しています。ですが、それはあくまで彼らの選択であり、このゲームの中での「持続的な空間地図」なのです。
HoloLens 2の開発はまだ途上だが、そこから得られる知見が、新しい働き方や暮らし方に必要な基盤となって、広がっていく。
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