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Macが独自プロセッサ「Apple Silicon」に移行し、Intelと決別する理由本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

ウワサは本当だった。AppleがWWDC 2020の基調講演で自社開発プロセッサの「Apple Silicon」をMacに採用し、2年をかけてIntel x86アーキテクチャから移行すると発表したのだ。その狙いはどこにあるのだろうか。

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「既存アプリも高パフォーマンスに実行可能」が示唆するもの

 語られていない行間のうち、最も注目しているのが、既存アプリとの互換性である。発表の中でAppleは、3Dモデリングツールの「Maya」を用い、600万ポリゴンで構成される映画レベルのシーンをスムーズに動かしながら編集したり、macOS向けに開発されている最新の3DゲームがIntel向けコードのままスムーズにプレイできたりする様子を見せた。

WWDC20
「Maya」のデモ。600万ポリゴンで構成されるデータをスムーズに動かしていた

 「Rosetta 2」という互換機能がこの役割を担っており、アプリをインストールする際に翻訳が行われた上で、さらに実行時にはJIT(ジャストインタイム)コンパイラでApple独自プロセッサが直接実行できるコードに変換されながら動作する。

WWDC20
Intel向けとApple Silicon向けのバイナリを両方含められるUniversal 2、Intel向けコードをApple Silicon向けにリアルタイム変換するRosetta 2、仮想化技術、iOSおよびiPadOSのアプリ対応など、Intelプロセッサからのスムーズな移行を進める

 これだけを聞けば特別な仕掛けではないが、このシステムが仮想コンピュータ機能を標準で持っていることと、x86アプリとの互換性・性能に関係しているのではと想像している。

 今回Macのデモで使われていたプロセッサのA12Z Bionicは、現行のiPad Proに搭載されているものと同じ設計だが、iPad Proに採用されたとき「なぜ、A13ではないのか」という疑問があった。例年ならば、最新のiPhone用プロセッサの拡張版がiPad Proに搭載されるが、この製品に搭載されたのは前世代のA12X Bionicに対して、わずかにGPUコアが1つ加わっただけのものだった。

 ここで振り返ってみると、コンピュータの仮想化やx86との互換性、パフォーマンスを高めるための仕掛けをA12に盛り込むため、あえてA13ではなくA12をベースに時間をかけて開発したが故のA13スキップだったのでは、と考えるのは邪推だろうか。

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A12X Bionic上で動作するmacOS Big Sur。基調講演のデモはこの環境で行われた

「2年かけて移行」が示すこと

 現時点で全ての情報がそろっていない以上、どうしても推測に頼る部分が多くなってしまうが、もう一つ特筆しておくべきことはIntel製プロセッサを採用するMacを今後も発売する予定があるとしつつ、2年で移行を完遂すると宣言していることだ。

 現在、Appleが持っているプロセッサは、最もパフォーマンスが高いものでA12Z Bionicだ。現行製品では13インチMacBook Proの上位モデル以上の性能を持ち、かつ省電力でもあるが、16インチMacBook ProやiMac、Mac Proに似合うプロセッサは持っていない。

 年内に「Apple Silicon搭載のMacを発売」とアナウンスしたことから、今年iPhoneが搭載するだろう「A14」ベースに高性能プロセッサを開発していると考えられるが、Mac専用というだけに(iPad用がそうであるように)、Macの熱設計に合わせて内包するプロセッサの数や統合する回路が最適化され、動作クロックなども異なると考えられる。

 さらには、プロフェッショナル向けのMac Proまでを2年という期間で置き換えるのであれば、これまでのApple独自プロセッサにはなかった構成(マルチダイを封入する、あるいは複数のプロセッサを何らかのシステムチップでつなぐ構成など)も登場する可能性がある。

 たった2年で可能だと現時点で案内するということは、既に準備は整っていると言っているようなものだ。WWDCの取材はまだ数日に渡って続く。新しい情報を入手次第、お伝えしていきたい。

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