「macOS Big Sur」のパブリックβを試して確信したこと Apple Silicon搭載に向けてiPhone・iPadとの統合が加速:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
AppleがMac向け次期OS「macOS Big Sur」のパブリックβ版を公開した。ここではAppleへの取材をもとにBig Surの現状を検証しつつ、Macの製品戦略についても考えてみたい。
徹底したルック&フィールの統一
Big Surは、MacとiPhone両方のアイコンデザインの要素を取り入れ、どちらかといえばiOS側に寄せることで、Mac的でありながらもiPhoneと持ち替えたときに違和感を覚えにくいルック&フィールに調整されている。
また操作体系にもiOSの要素を持ち込んでおり、各種設定内容と設定変更を同時に行えるコントロールセンターがiOSから持ち込まれている。ただ手法やフィーリングは持ち込んでいるが、きちんとMac向けにアレンジもされている。
コントロールセンターはiOSのステータス確認と設定操作をシンプルなパネルにひとまとめにしたユーザーインタフェースだが、iOSならばタップ&ホールド(3D Touchなら強めに押す)で呼び出される次の階層への移動を、macOSではアイコンをクリックすることで掘り下げていくなどのアレンジで、タッチパネルとマウスの操作の違いを、違和感なく進められる。
従来よりもわずかにコーナーの丸みが強くなったウィンドウやデスクトップのコーナー、半透明を多用した柔らかな光を感じさせるデザインテイストは、iOSでおなじみのものだ。コーナーに丸みがある正方形のフラット系テイストなアイコンもmacOSとのバランスをとりながら、見事にiOS的なフィールを出している。
Big Surの開発前に、iPadOSにキーボードとトラックパッドのユーザーインタフェースを導入していたこともあり(つまりiOS側からも歩み寄っていることもあり)、macOSのフィールを崩さずにルック&フィールの統一を果たしている。
「MacはMac」、決してiPhone・iPadとは完全統合されないが……
このBig Surをしばらく使ってみて確信しているのは、「MacがiPhone・iPadのプラットフォームに吸収されてしまうのでは?」という、過去において定期的に繰り返されてきたウワサが誤りであったことだ。既に確信はしていたが、今回の一連の発表でそれが確認されたという方が正しいかもしれない。
Big Surにおけるデザインの調整は極めて慎重に行われているが、その多くは美しさよりもiPhone・iPadとのなじみやすさに力点が置かれているように感じる。Appleとしては何としてでもiOSの開発コミュニティーを、Macのエコシステムに合流させたいのだろう。
WWDCでは、Apple Silicon搭載Macは(x64版・x86版Windowsの仮想化ができない一方で)iOS・iPadOS向けアプリが実行できることを明らかにしていたが、iOS・iPadOS向けアプリをMacのマウス(トラックパッド)とキーボードで完璧に動かすのはなかなか難しい。
しかし、Big Surはメニュー、環境設定シート、基本的なダイアログの呼び出しやスクロールバーなど不足するユーザーインタフェース要素を自動的にBig Surが判断し、アプリ内に生成する。
現時点ではApp Storeでそうしたアプリが提供されていないため、自分自身でXcodeを使って試すほかないが、簡単な検証レベルであれば、スマートフォンなどにしか内蔵されていないデバイスやセンサーを用いるもの以外は高い互換性があると感じている。
どの程度の互換性が達成され、開発者たちがどこまでiOS・iPad OS向けアプリをMacで動かしたがるのかは、Big Surの正式リリース後に分かるだろう。正式リリース時には、こうした部分での隠し球もあるのではないだろうか。
Big Surのデザイン変更は、恐らくApple Silicon搭載Macの価値を高めてくれるだろう共用アプリのために行われているのではないか、というのが率直な感想だ。Appleは2年をかけてIntel CPUからApple Siliconへの移住計画を進める。
Big Surはそのスタート地点でしかなく、時間をかけて調整がさらに行われるだろう。本来ならばかなりの難題だが、デザイン変更の周到さを見ると懸念されるような問題はなく、スムーズな部分的統合とMacらしさの両立をもたらしそうだ。
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