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GeForceの供給は? なぜハッシュレート制限を導入した?――NVIDIAのジェンスン・ファンCEOが答えるCOMPUTEX TAIPEI 2021

COMPUTEX TAIPEI 2021の開催に合わせて、NVIDIAのジェンスン・ファンCEOが報道関係者とのオンラインインタビューに応じた。話は非常に多岐に渡ったが、この記事ではコンシューマー向け製品であるGeForceに関する話に絞り、その模様をお伝えする。

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 NVIDIAのジェンスン・ファンCEOは6月1日(米国太平洋時間、以下同)、「COMPUTEX TAIPEI 2021」に合わせて行った発表に関する質疑にオンラインで応じた。5月31日に発表された新製品の狙いを説明しつつ、報道関係者からの問いにユーモアを交えながら答えた。

 この記事では、コンシューマー向け製品に関する言及や質疑に的を絞って、その模様を簡潔にお伝えする。

ファンCEO
トレードマークの皮ジャン姿で登場したジェンスン・ファンCEO(写真提供:NVIDIA)
Voyager
ファンCEOは、完成したばかりの新社屋で、自社のGPUで構築されたスーパーコンピューターを使って設計された「Voyager(ボイジャー)」から質疑に参加した。この質疑がVoygerの「こけら落とし」となるようだ(オンライン質疑の模様から)
質疑中
質疑に応じるファンCEO。話に熱が入ったせいか、トレードマークの皮ジャンを途中で脱いでしまった(写真提供:NVIDIA)

GeForce RTX搭載ノートPCは「世界一普及したゲームコンソール」

 まず、ファンCEOはコンシューマー向けGPU「GeForce RTX 30シリーズ」を取り巻く現状を紹介した。

 5月31日に発表したデスクトップ向け「GeForce RTX 3080 Ti」「GeForce RTX 3070 Ti」は、「1年に1回、定期的に計画しているハイエンドGPUへのアップグレード」に相当するという。また、1月に発表したモバイル(ノートPC)向けGPUは、約140製品に採用が決まったという。

 モバイル向けGPU事業は、NVIDIAの中で一番急速に成長している分野の1つだとファンCEOは語る。

 外部GPUを備えるノートPCの市場は急速に成長しており、ノートPC市場全体よりも7倍の速度で成長しているという。先述の通り、GeForce RTX 30シリーズは約140のノートPCに採用が決まっているが、これは先代の「GeForce RTX 20シリーズ」の約2倍に相当する。外部GPUを備えるノートPCの市場は“絶好調”なのである。

 ファンCEOは、GeForce RTXシリーズを搭載するノートPCを「世界で一番普及しているゲーム機」とみなしている。GeForce RTX 3060 Laptopでも「PlayStation 5よりも30〜50%パフォーマンスが高い」と、自社のモバイル向けGPUの優位性をアピールした。

 ちなみに、PlayStation 5は、競合のAMDが開発した「RDNA2アーキテクチャ」に基づくGPUを搭載している。言及はなかったが、Microsoftの「Xbox Series X」「Xbox Series S」もRDNA2アーキテクチャベースのGPUを搭載している。RDNA2アーキテクチャは、AMDの最新GPUである「Radeon RX 6000/6000Mシリーズ」でも使われている。遠回しだが、ゲーミング向けGPUではNVIDIAの優位が続いていると言いたいのだと思われる。

 AdobeやAutodeskを始めとするソフトウェアメーカーは、クリエイター/3Dモデラー向けアプリを手がけている。その多くは、GeForce RTXシリーズを利用することで処理速度が向上する。ファンCEOは「同じノートPCが、デザインツールやクリエイティブツールに必要な性能を備えている」というアピールも忘れなかった。

発表時
モバイル向けGeForce RTX 30シリーズは、発表時に「70超」の搭載モデルが登場すると発表されていたが、現在はその数を約140まで伸ばしている

マイニング用GPUの普及でGeForceの供給が安定?

 NVIDIA自身はファブレス(自社工場を持たない)半導体メーカーで、現行のGeForce RTX 30シリーズは韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に委託して生産している。

 昨今、半導体には生産能力を上回る需要があり、ニュースでも「半導体不足」が取り上げられる機会が増えた。GPUについては、ビットコインのマイニング需要の高まりを受けた供給不足が指摘されている。

 この点について、ファンCEOはどう考えているのだろうか。質疑応答の様子を見てみよう。なお、やりとりは英語で行われたが、筆者が日本語訳をしている。

―― 半導体業界では、全体的に品薄問題が続いていると思います。この問題はいつまで続くと考えているでしょうか。GPUも段々と価格が高くなってきていますが、価格が落ち着くまでにどのくらいかかると思いますか。半導体不足に関する意見を聞かせてください。

ファンCEO NVIDIA自身は市販コンポーネントを製造していないので、皆さんが想像するような他社の状況とは異なります。私たちはDRAM、フラッシュメモリ、あるいはCPUを“製造”していません。“商品”志向ではないのです。

 例えば、GeForceであれば、私たちは(PCやグラフィックスカードのメーカーに対する出荷価格の)値上げは行っていません。私たちの価格は基本的に不変であり、(最終製品の)希望小売価格も提示しています。販売チャネルや市場における価格が少し高くなっているのは、(グラフィックスカードに対する)需要が非常に多いからです。

 それを緩和する戦略として、特別な製品である「CMP」(※1)を作りました。もし、仮想通貨マイナーが直接これを購入すれば、大量の(マイニング専用の)GPUを入手できることになります。(供給が増えることで)オープンマーケットから(GeForceを)買う気も無くなるでしょう。

 加えて、私たちはGeForceに仮想通貨マイニングのためのハッシュレート(採掘速度)を低下させる新設定を導入しました(参考記事その1その2)。ゲームのためにGPUを購入したい人のために、GPUのパフォーマンス(ハッシュレート)を意図的に低下させたのです。マイニングのためにGPUが欲しいなら、皆さんはCMPか、もしも、もしも、もしも、どうしてもというなら、不運にもハッシュレートは低下しますがGeForceも選べます。

 この方法で、私たちはゲーマーのためにGPUを温存でき、結果として徐々に価格が下がっていくことを期待しています。

(中略)

ファンCEO 私は、(クラウドコンピューティングやスマートフォンといった)激動要素によって半導体産業の在り方が変わったと考えています。私たちも、需要が供給を上回る状態になってしまっています。それは確かなのですが、直近の四半期(2021年1〜3月)の実績を見れば分かる通り、毎年大幅に成長できる程度には十分な供給能力を確保しています。この第2四半期(4〜6月)も十分な供給をしてきています。

 しかし、本当はもっと供給できればと思っています。(それでも)私たちはよりよく成長するための供給量は確保しています。支えてくれるサプライチェーンやパートナー企業に感謝します。

(※1)NVIDIA CMP:NVIDIAが開発したマイニングに特化したGPU。ディスプレイ出力は用意されない代わりに、冷却効率を高めることで電力効率も改善している(参考リンク

 以下のようなやりとりもあった。

―― (GeForceの)ハッシュレート制限は将来も続けるのでしょうか。「ハッシュレート制限あり」「ハッシュレート制限なし」の両方を売り分ける可能性もあるのでしょうか。

ファンCEO 先に2つ目の質問に答えておくと、未来は分からないとだけ言っておきます。

 私たちがハッシュレートの制限をしているのは、ゲーマー向けのGeForceの供給を制御し、守るためです。一方で、(先述の通り)仮想通貨マイニングのためのソリューションとして、CMPも用意しました。私は、これらの取り組みがGeForceの価格をより手頃にし、欲しいと思うユーザーに行き届くことにつながると考えます。

 私は近い将来において仮想通貨マイニングが無くなることはないと考えます。仮想通貨自体も(社会に)定着するとも思っています。仮想通貨は「価値の交換」をする上では合理的なものです。「価値の保存」については議論が分かれる所ですが、現実に価値の交換は行われています。

 しかし、もっと重要なのはイーサリアム(Ethereum)や、将来の類似形態は、取引の安全性を確保する上で優れた分散型ブロックチェーン技術であるということです。ブロックチェーンには何らかの基礎的な“価値”が必要で、それは「採掘」される必要があります。これが、仮想通貨が残り続けると考える理由です。

 例えイーサリアムが今“熱い”状況であっても、1年後にはある程度落ち着くでしょう。それでも仮想通貨マイニング自体は続きます。私の直感ではありますが、(NVIDIAには)CMPとGeForceがあって、マイナーにはCMPを提供できると思っています。(以下略)

 マイニング専用GPUであるCMPを用意する一方で、GeForce RTX 30シリーズにおけるハッシュレートを制限することで、マイニング用途でGeForceを購入するマイナーが減り、結果として供給が増え、価格は落ち着く――そのように考えているようだ。

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