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Windows 10が「最後のバージョン」を撤回した理由 Windows 11は何が違うのか本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

「Windows最後のバージョン」として2015年にリリースされたWindows 10。それからWindows 10のままアップデートを重ねてきたが、なぜ今になってWindows 11なのか。そこには「一線を引くことで次の10年への懸念を排除する」といった意図が見え隠れする。

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 2015年のWindows 10リリース以来、初のメジャーバージョンアップとなる「Windows 11」が発表された。日本時間6月25日の発表から数日後には、早期に次世代技術へとアクセスできるWindows Insider Programにて初のプレビュー版が公開され、既に多くのユーザーが手軽に試せるようになっている。

Windows 11
開発中の「Windows 11」。2021年秋から2022年にかけてWindows 10からの無料アップグレードが提供される予定だ

 2021年内の正式リリースを考えれば、大きなアーキテクチャの変更は考えられず、現在のプレビュー版をブラッシュアップして正式版となるだろう。ユーザーインタフェースはともかく、内部的にはほぼWindows 10のままだ。イメージ的には「衣装とヘアスタイルを変え、対外的に名乗るための名刺を変えた」という印象だろうか。

 しかし、実際にプレビュー版を使い、資料を読み込んでいくと、本来はWindows 10の大型アップデートだったリリースにWindows 11という次世代を想起させる名前を与えた理由がうかがえる。

Windowsが11になる最大の理由は「動作要件」か

 Windows 10が「最後のWindows」としてアナウンスされたのは広く知られた話だ。時代背景や技術的な系譜を考えれば妥当で、OSとしての基礎部分は大幅な改変や書き換えなどは行わず成熟を深めていく方がよいというのは妥当な判断だろう。

 もちろん、時代の変化とともにPCに搭載されるインタフェースやペリフェラル、チップの技術トレンドも変わるのだから、それに伴う追従は必要になる。しかし、いずれもOSの基本構成や核となる部分(いわゆるカーネル)のコードを書き換える必要はない。そんな見込みがあったからだろうか。

 実際、OS(基本ソフト)とは何かの捉え方次第だが、前述したようにWindows 11はもともとWindows 10の大型アップデートとして開発されてきたものだった。それをWindows 11と言ってしまうから捉える側が混乱する。そう感じている方もいるだろう。

 しかし、マーケティング的な理由だけで「11」を名乗っているのかといえば、これも少々異なる。なぜなら、ご存じのようにWindows 11にはインストール可能なプロセッサに厳しい制約があるためだ。

Windows 11
Windows 11の動作要件(Windows公式サイトより

 といっても、CPUやGPUの性能、あるいはメモリ容量などは大きな問題ではない。一番のハードルはCPUの世代に制約があることだ。

 Windows 11発表時に告知された動作要件は、Intel製であれば第8世代Core以降、AMD製であればRyzen 2000シリーズ以降というものだった(その後のInsider Previewでは第7世代CoreやRyzen 1000シリーズまで要件が緩和されており、Windows 11正式リリースまでに変更される可能性はある)。

 CPUの制約を設けた理由はセキュリティの強化だ。これらのプロセッサではシステムの仮想化機能が追加されている。他にもTPM 2.0チップ搭載とセキュアブートを有効化したUEFIによる起動が条件とされているが、これらを組み合わせることでWindows上で動作するソフトウェアを高いレベルから監視する。

 AppleはIntel CPU搭載のMacをT2チップでラッピングする構造にすることでセキュリティを高めたが、Microsoftはアプローチこそ異なるものの、ソフトウェアの振る舞いを高いレベルから監視できるようにしたのだろう。

 動作が遅い、速いというレベルであれば、機能設定の調整でいろいろなシステムに対応できるが、特定の機能が必要ともなれば足切りせねばならない。

セキュリティで線引きが必要なら……

 もっとも、「セキュリティが大幅に高まります」といっても、なかなかユーザーは新しい世代のWindowsには切り替えてくれない。Macのように限られた製品での動作をチェックするだけでは不十分で、あらゆるユーザーのWindowsをアップグレードと唱えたところで、なかなか達成できないのは過去の歴史でも証明されている。

 そこで、Microsoftは大型セキュリティ対策を導入するタイミングで、一気に(セキュリティ面のアーキテクチャ以外も)世代を上げて行こうと考えたのではないだろうか。

 表面上、Windows 11の変更点で目立つのはユーザーインタフェースやデザインの刷新だが、搭載されるシステムの要件をかなり細かなところで引き上げている。

 CPUの世代ほどではなく、おおむね最近のPCならばクリアできる緩い条件ではあるが、CPUはデュアルコア以上が求められ、要求メモリも2倍、32bit版は用意されず、DirectX 12対応のGPUが必須となる。

Windows 11
Windows 11搭載PCでは、細かなシステム要件をかなり細かなところまで引き上げている

 繰り返すが、この条件そのものは厳しいとは思わないが、新たなスタート地点を再設定しようという意図がはっきり見えることは確かだ。これまではPCの進化に合わせ、WindowsというOSそのものの基盤を更新していくことがメジャーバージョンアップの目的だった。

 しかしWindowsの完成度が上がりバージョンは10のままで問題ないところまで成熟したものの、長い歴史の中でハードウェアは多様化してしまった。今後、アップデートで機能、性能を高めていく余裕を作る上でも「伸びしろ」を作るため、線引きをする必要があった。

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