新「MacBook Air」や「M2チップ」だけじゃない Appleが3年ぶりに世界中の開発者を集めて語った未来:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/4 ページ)
抽選制ながらも約3年ぶり本社に開発者を招待して行われたAppleの「Worldwide Developer Conference 2022(WWDC22)」。今回は「Apple M2チップ」と、同チップを搭載する新しい「MacBook Air」「MacBook Pro(13インチ)」といったハードウェアの新製品も発表された。発表内容を見てみると、おぼろげながらもAppleが描く未来図が浮かんでくる。
順当なアップデートだったApple M2チップ
半導体のファウンドリー(受託製造者)として大手である台湾TSMCは、2022年内に3nmプロセスを限定的ながら立ちあげるという報道もある。同社にSoCの製造を委託しているAppleが3nmプロセスを採用する可能性もあったが、Apple M2チップは結局M1チップと同じ5nmプロセスで登場することになった。
ただし「第2世代」の5nmプロセスを名乗っていることから、さまざまな改良が施されている。メインメモリの帯域はM1チップの約1.5倍に拡大され、パッケージに搭載できるユニファイドメモリ(メインメモリ兼グラフィックスメモリ)の容量は最大24GBとなった。「ProResビデオエンジン」や8K(7680×4320)ピクセルのH.264/H.265(HEVC)動画のハードウェアエンコード/デコードに対応した「メディアエンジン」も搭載している。
後述するが、処理パフォーマンスの改善具合から推察するに、CPUコアやGPUコアはiPhone 13シリーズなどで採用された「A15 Bionic」のものがベースになっているものと思われる。
iPhone/iPad向けのApple Aチップシリーズが世代を重ねるごとに高効率化されているのと同様に、Apple M2チップはApple M1チップよりも消費電力あたりの処理パフォーマンスは向上している。
ピーク性能も電力効率も高まったM2チップだが、MacBook Air(8コアCPU+10コアGPU構成)とMacBook Pro(13インチ)に搭載されるものに処理パフォーマンス上の差はない。ただし、M1チップを備える現行のMacBook AirとMacBook Pro(13インチ)と同様に、冷却ファンを備えるMacBook Pro(13インチ)の方がピーク性能は維持しやすいだろう。
M1チップと同じく、CPUコアの構成は処理パフォーマンス重視の「高性能コア(Pコア)」と省電力性重視の「高効率コア(Eコア)」が4基ずつとなっている。それでも、処理パフォーマンスは最大で18%向上している。これはCPUコアの設計が新しくなったことに起因するだろう。
一方で、GPUコアはM1チップが7コアまたは8コアだったのに対し、M2チップでは8コアまたは10コアに増強されている。M1チップの8コアGPUとM2チップの10コアGPUを比較すると、最大35%のパフォーマンス改善を果たしている。
M1ファミリーのアップデート履歴を振り返りつつ今回のM2チップを見てみると、iPhone/iPad向けのApple Aファミリーの開発成果を反映しつつ、半導体製造の熟成に合わせてより大規模なSoCとして仕上げたものがM1ファミリー、あるいはこれから展開されるであろうM2ファミリーということなのだと思う。
簡単にいうと、5nmプロセスの歩留まりが改善した結果生まれたのがM1 Proチップ、M1 Max、あるいはM1 Ultraチップであり、さらにM1チップからM2チップへのアップデートも果たせた、ということだ。
2022年秋に登場するであろうiPhoneのSoCは、3nmプロセスになる可能性がある。このプロセスが安定してくれば、その開発成果(CPUコア、GPUコア、ニューラルエンジンなど)を踏襲しつつ、スケールアップして新たなMファミリーを形成していくという、ある種のパターンが見えてきたといえるかもしれない。
M1チップから約1年半を経過してのアップデートということもあり、M2チップの実力は確実に向上している。具体的な性能評価は組み込まれた製品を評価する際に言及したいが、元々スマートフォンやタブレット向けのSoCとして他を圧倒する効率を誇っていただけに、追いつこうとするライバルを突き放す実力には仕上がっていると思う。
関連記事
- WWDC21で新ハードウェアは出なくとも「Apple Siliconが戦略の中心」と感じた理由
Appleの開発者会議「WWDC」が今年も開催。新ハードウェアや新チップの発表はなかったが、各OSのアップデートや連携の強化といった全体を見渡してみると、やはりApple Siliconが戦略の中心にあると感じられた。 - 「Mac Studio」「Studio Display」を試して実感した真の価値 小型・高性能に加えてAppleの総合体験も提供
「Mac Studio」を使い始めてみると、コンパクトで省電力ながら高いパフォーマンスを発揮できるのはもちろん、別の画期的な点にも気付いた。それは「Studio Display」と組み合わせた場合のAppleが注力している総合的な体験レベルの高さだ。 - 「M1 Ultra」という唯一無二の超高性能チップをAppleが生み出せた理由
M1 Maxで最大と思われていたAppleの独自チップだが、それを2つ連結させた「M1 Ultra」が登場した。半導体設計、OSと開発ツール、エンドユーザー製品の企画開発、その全てを束ねるAppleだからこそ生み出せた唯一無二のチップだ。 - 新「MacBook Pro」を使って分かった超高性能と緻密なこだわり M1 Pro・Maxでパソコンの作り方まで変えたApple
AppleのM1 Pro・Maxを搭載した新型「MacBook Pro」が発売された。その性能に注目が集まっているが、実際の製品に触れて感じるのは単にベンチマークテストの結果だけでは評価できないディテールへのこだわりだった。 - 「M1 Pro」「M1 Max」は結局どこが違って何が進化したのか 極めて合理的なAppleの選択
MacBook Proのモデルチェンジとともに登場したAppleの新チップ「M1 Pro」「M1 Max」。飛躍的に性能が向上したというが、その内部構造から秘密に迫る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.