なぜ「iPhone 14 mini」がなくなって「iPhone 14 Plus」が出たのか 実機を触って分かったこと:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
他のiPhone 14ファミリーから遅れること2週間、まもなく「iPhone 14 Plus」が発売される。iPhone 12ファミリーから登場した「mini」ではなく、大画面の「Plus」が登場したのはなぜなのだろうか。実機を使いつつ考察してみた。
Plusの一方で姿を消した「mini」はどこに?
ところで、2022年の新しいiPhoneでは、Proではない大画面モデル(Plus)が追加された一方で、5.4型ディスプレイを搭載する「mini」モデルが無かったことも話題となった。大画面モデルが登場した代わりにコンパクトモデルが姿を消したことについて、「miniは切り捨てられたのではないか?」という声もあるようだ。
先述の通り、Androidスマホを中心に、スマホにおける大画面化トレンドは揺るぎないものになっている。一方で、(iPhoneとしては)大画面化にかじを切り始めたiPhone 6シリーズの後継モデルであるiPhone 6sシリーズが登場したあたりから「手のひらに収まるiPhoneがほしい」という声が少なからず聞かれるようになった。
その後、iPhone 5sのボディーをベースとする初代「iPhone SE」が登場したことで小型化を望む意見はいったん沈静化したが、第2世代のiPhone SEがiPhone 8のボディーをベースとしたことで、「小さなiPhone」へのニーズがより大きく巻き起こった。
Appleとして、そんな声に応えて登場したのが「iPhone 12 mini」だった。いわゆる「SE」ではないモデルで、初めてコンパクトなバリエーションを用意したわけだが、最終的な評判は必ずしも良いものではなかった。
念の為に書き添えると、スマホ全体で見るとコンパクトモデルへのニーズは高くない。しかし、「コンパクトなiPhoneがないから買い換えたくてもできない」という声は目立つ。
Appleが売上の内訳を公開していないこともあり、miniモデルが見送られた理由について、さまざまな憶測を呼んでいる。しかし、Androidスマホでもコンパクトモデルがヒットしているという話もない。ソニーがハイエンドなコンパクトモデルとして「Xperia 5シリーズ」をリリースしているが、どちらかというと例外的な存在である。
しかし、2022年のiPhoneにおいてminiがなかったことをもって「これからはminiを作らない」という意思表示とは言いきれないと考える。iPadにおける「iPad miniシリーズ」を例に取ると、決してメインストリームのモデルではなく、頻度は低いもののモデルチェンジは実施されている。
これと同様に、iPhoneのminiモデルも「1年ごとのモデルチェンジをやめた」というだけという可能性も否定しきれない。
Appleの製品ラインアップを振り返ると、最近は基本機能が充実した十分に成熟した製品を「SE」として発売し、売上台数としては最も大きなボリュームを稼ぐというパターンも見られる。iPhoneとApple Watchがその典型例だ。
一方で、先進的な技術をいち早く取り入れ、機能でも体験の質でも新しい価値を作り出し、ブランドを支える役割は上位モデルが担っている。「数が出る/出ない」ではなくApple製品を買ってくれている消費者全体の満足度を高めることが基本戦略といえる。
iPhone 12 miniの後継モデルとして、翌年に「iPhone 13 mini」が登場したのは、カメラの改善やバッテリー駆動時間の向上といった「コンパクトだけどハイスペックなモデル」の満足度をキッチリと高めることで、上位製品や“真の”メインストリーム製品である第3世代のiPhone SEの売り上げに貢献するとAppleが考えた結果だと思われる。
2022年のiPhone 14シリーズは、スペックにおいてiPhone 13シリーズからの変更点は少ない。ゆえにiPhone 13 miniを継続販売すればよい――あくまで予想でしかないが、このような判断からモデルチェンジを見送った可能性もある。
「プレミアムコンパクト」は難しいのだろうか……?
自動車の世界では、一時「プレミアムコンパクト」という言葉が流行した。その呼び方の通り、「プレミアムカー」に搭載されたエンジン、足回り、ボディーや内装の設計をコンパクトカーに落とし込もうという考え方だが、その発想に基づく「プレミアムコンパクトカー」に大ヒット作が出たかというと、それほどでもない。
スマートフォンでも同じようにプレミアムコンパクトという考え方はある。先に挙げたソニーのXperia 5シリーズはその典型例で、同シーズンに発売されたフラグシップモデル「Xperia 1シリーズ」の基本スペックを維持しつつ小型化している。コンパクトでハイスペックということで毎年大きな話題を呼ぶものの、セールス的に大ヒットしているかというと、それほどでもない。
話をiPhoneに戻すと、iPhone 12 miniが不評だった一番の理由はバッテリー容量の小ささである。ごく普通に使っても「1日持たない」という声は少なくなかった。それだけに、Apple自身もiPhone 13 miniの発表時にバッテリー駆動時間の改良を誇らしげに語っていた。
しかし、“サイズ”は簡単に乗り越えられないハードルである。大きなボディーを持つプレミアムモデルのエッセンスをコンパクトなボディーに収めようとすると、おのずから限界が生じる。このことは自動車もスマホも変わりない。iPhone 12 miniは、iPhone 12と同じ機能を載せるためにバッテリー容量が犠牲になってしまったのだ。
先述の通り、iPhone 14シリーズは放熱設計を改善している。今回iPhone 14シリーズにminiがなかったのは、満足の行く放熱設計とバッテリー駆動時間をminiというフォームファクターでは両立できなかったからではないだろうか。
技術は日進月歩である。だからといって、「来年になればminiが復活する」とは言いきれない。iPad miniの例を考えると、そのサイズ感で上位モデルと同じ使い勝手を実現できるSoCが登場したタイミングでモデルチェンジをして、それまでは旧モデル(iPhone 13 mini)の販売継続で乗り切るというシナリオが一番現実的だろう。
夢はあるが簡単に実現できない――それがプレミアムコンパクトなのかもしれない。
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