Apple M1/M2対抗の「Oryon」はWindows on Armの流れを変えるか:鈴木淳也の「Windows」フロントライン(2/2 ページ)
Qualcommがハワイで「Snapdragon Summit 2022」を開催し、新たなArmプロセッサ「Oryon」について予告を行った。ArmによるQualcommの提訴も含めて考えてみた。
2社の争いとAppleの存在
ウィリアムズ氏のLinkedInのプロフィールを確認すると、現在の役職はQualcomm Technologiesのエンジニアリング担当SVPとなっている。その前、Nuvia創業から買収までの2年2カ月は同社創業者兼CEOだが、さらに1つ前はAppleのプラットフォームアーキテクチャ部門のシニアディレクターとなっている。
Appleに移籍する2010年よりさらに前はArmに12年間在籍しており、つまりArmアーキテクチャとSoC開発のスペシャリストということだ。Appleに関するプロフィールをさらに確認してもらえれば分かるが、数々の開発コード名で書かれたSoC(おそらくAシリーズの各名称と思われる)の最後に「M1 Pro」「M1 Max」「M1 Ultra」と書かれているのが分かる。
つまり、QualcommがM1やM2対抗に向けて準備するSoCのCPUコア開発担当のトップとして買収によるヘッドハントを行った相手は、他ならぬM1の開発者本人ということになる。
もともとNuviaはサーバやデータセンター向けのArmアーキテクチャSoCの開発で創業された企業であり、当初Qualcommが同社買収を発表したときは「Centriq発表後にすぐに撤退を表明したサーバ向けSoC分野への参入か?」といった報道があったが、後にアモン氏も認めているようにNuviaのメンバーが持つPC向けプロセッサの開発ノウハウ吸収が目的であったことは間違いない。
一方で、ライセンスの解釈と「どの時点で開発がスタートした製品なのか」という主張を巡って訴訟が発生しており、Qualcomm側では「これは問題ない」としてOryonの計画を予定通り進めているのが現状だ。それが証拠に、Snapdragon Summitの基調講演ではウィリアムズ氏がステージに登壇してOryonの発表を行っており、会場からは同氏の登場は歓声を持って迎えられている。
実際のところ、裁判が今後どのような形で進んでいくかは分からないが、おそらくOryonがリリースされた後も比較的長きに渡って、両社の主張がぶつかることになると予想される。Armとしてはライセンスの停止そのものよりも「損害賠償の獲得とライセンスの再締結」の方がメリットは大きいわけで、おそらくはこれが一応のゴールになるのだろう。
ただ、この裁判で最も得するのはライバルに指定されたM1やM2を持つAppleであり、裁判によって製品リリースを遅らせられたり、あるいは損害賠償や販売機会損失でQualcommにダメージを与えられれば、それだけで同社にとって有利となる。
一部には、ウィリアムズ氏の動向を含めて背景を全て把握しているAppleが、ライバル製品妨害のためにArmに裁判をけしかけているのではないかという話も出ているほどで、それだけ裁判の結果いかんにかかわらずAppleに有利となりやすい展開であり、また同社がOryonの存在を警戒していることの補強材料にもなり得ると考えられていたりする。
いずれにせよ、我々がユーザーの視点で一連の騒動を見たとき、適度に競合してより良い製品が市場に増えてくれることがベターであり、Oryonが期待を裏切らない製品であることを望みたい。
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