目指すは「メタバース」ではなくて「新時代のPC」 Apple Vision Proに込められたAppleの“野心”:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
Appleが新ジャンルのデバイスとして「Apple Vision Pro」を発表した。このデバイスをよくよく見てみると、Appleが何を考えているのか想像できる。
「空間コンピュータ」という新ジャンル
Apple Vision Proは、Appleの提唱する「空間コンピュータ」の第1弾となる。まず2024年初頭に米国で発売され、他の国/地域では2024年後半の発売が予定されている。つまり日本でリリースされるとしても、発売まで少なくとも約1年待たなければいけない。
そう聞くと「動く実機がまだないのでは?」「WWDC23のリアル会場で展示されているのはモック(模型)?」と考えるかもしれないが、動作する実機は既にある。リアル会場にも数台の実機が展示されていたが「操作(タッチ)禁止」だったため、手に取って試すことはできなかった。
取材期間中、筆者は一部機能を体験できる予定なので、体験できたら別の記事でレポートしたいと思う。
そんなVision Proだが、実機を見る限り「技術ありき」ではなく「目的ありき」でハードウェアが設計されていると感じる。言い換えると「空間コンピュータ」を実現するために仕様を検討した結果、このようなハードウェアになったようなのである。
空間を通じて、人とコンピュータがつながるためには、周囲の状況を検知する多数のカメラやセンサーが必要になる。Vision Proには12基のカメラ、5基のセンサー、6基のマイクが組み込まれている。単体で稼働するAR/VRゴーグルでも、ここまで多数のカメラ、センサーやマイクを備えるものは珍しい。
現実空間の情報を取り込むべく、カメラ、センサー、マイクは同時並行でデータを送信する。複数のデータを再構成して「両目に届ける映像データ」と「両耳に届ける音響データ」を仕立てないといけないのだが、それをM2チップ“だけ”でこなすのは、さすがに難しい。
そこで、これらの信号を一括して処理すべく、Appメールを打つ場面もあった
leは「Apple R1チップ」を新規開発した。R1チップの詳細は明らかになっていないが、Appleの技術者によると「センサーから発生するストリーム(信号)を、このチップに流し込んで処理する」のだという。
想像だが、複数のカメラの映像から現実空間のステレオ映像を合成する処理、複数のマイクが拾った音声を空間オーディオ音声として合成する処理はもちろんのこと、現実空間の距離情報やハンドサインやジェスチャーの検出などを担っているものと思われる。
現時点では、特にグラフィックス処理におけるM2チップとR1チップの役割分担には不明点もあるが、R1チップが多くの処理を担っていることは間違いない。このようなチップを“自社設計”できるのも、Appleの大きな強みだ。
いずれにしても、アプリを動かすためのメインプロセッサに、iPhoneや一部のiPadと同じ「Apple Aシリーズ」ではなく、MacやハイエンドiPadと同じくパワフルな「Apple Mシリーズ」を選んだということは、Vision Proがあくまでも「空間コンピュータ」を目指すという真意が見て取れる。
Vision Proは、Appleがこれまで開発してきたPC、タブレット、スマホといったコンピューティングスタイルとは異なるベクトルを向いている。ある意味で、これらを進化させる「新しいジャンル」を目指している。
すなわち、これはディスプレイデバイスの延長線上にある「ゴーグル」ではなく、新しいPCの姿である。今まで培ってきた技術をまとめ直して、新ジャンルとして提案したものともいえる。
今後、もちろん“Vision Pro専用”のアプリやコンテンツも育っていくだろう。搭載がアナウンスされている、一定の立体的な空間を保存して再現できるという写真やビデオの撮影/再生機能がその一例だ。先に触れたDisneyと共同で作っていくエンターテインメントコンテンツも興味深い。
そうした将来の可能性以前に、Vision Proは“PC”でもある。その気になれば、Bluetoothキーボードとマウス、トラックパッドで仕事だってできるのだ。
先述の通り、Vision Proにはキーボードやマウスも接続できる。イメージ動画では、Bluetooth接続のMagic KeyboardとMagic Trackpadを使ってメールを打つ場目もあった
「Apple Siliconだけ」になったその先は?
Apple Vision Proの発売は、2024年と先である。それでも、このデバイスからコラムを書こうと思ったのには理由がある。それはAppleの他ジャンルのデバイスとも深いつながりがあるからだ。
今回のWWDC23で、Appleは「Macを自社製SoC(Apple Silicon)で作り直す」という大きな目標を遅れながらも達成した。唯一、Intel CPUを継続して利用していた「Mac Pro」も「Apple M2 Ultraチップ」によってApple Siliconに移行できたのだ。
Appleは、自社製品のCPU(SoC)を自社設計とすることで製品の競争力を決定的に高めることに成功してきた。Macの場合は、自社製SoCへの切り替えに伴ってiPhoneやiPadとの技術的な統一性や互換性も高めている。
予定から半年ほど遅れたものの、Appleの「野望」をより高レベルで実現する準備が整ったのだ。
今回のWWDC23で、Appleは「macOS Sonoma」を発表した。
その説明の中で、Appleは「iPhoneやiPadの新OSで導入される新しい機能は、どれもmacOS Sonomaでも利用できる」と語った(※1)。すごくサラッとした説明だったが、これもApple Siliconで統一されたハードウェア基盤だからこそ実現できたことである。
(※1)Intel MacではApple Siliconに依存する新機能を利用できない
ご存知のように、Apple Siliconの恩恵は、スピーカーの音質やカメラの画質など「共通の付加価値」を築くために活用されている。そして、ハードウェアのジャンルを超えて提供される多様な付加価値は、Apple Siliconの世代が進化するごとに高められていく。
例えば2023年秋にリリース予定の「iOS 17」では、留守番電話の中身を音声認識し、着信通知の中に順次表示される機能が追加される。この機能のベースとなっている文字起こし機能は、当然ながら他のApple Silicon向けOSでも利用されている。
さらに、この文字起こし機能では「新しいAIモデル」が採用されているという。恐らく、Apple Siliconで統一されたことで「Neural Engine」の活用が進んだのだろう。
さまざまなジャンル、さまざまな粒度でApple Siliconに実装されていく技術は、あらゆる製品ジャンルへと伝播し、互いの製品ジャンルを強化し合う環境が生まれつつあるのだ。
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