“AI元年”となった2023年 PCの世界にも地殻変動をもたらす予感:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)
2023年初頭、MicrosoftによるOpenAIへの巨額投資が話題を呼んだ。それ以来、同年は“AI元年”とも呼べる盛り上がりを見せた。2024年も、その流れは続きそうである。
テクノロジー業界の1年は、Consumer Technology Association(CTA)が主催する展示会「CES(※1)」の話題から始まることが恒例だ。しかし2023年は、CESにおける「新しいEV技術」や「クロスリアリティー」といった話題よりも、MicrosoftによるOpenAIへの巨額出資というニュースが話題をさらっていった。
この巨額出資は、人々に大きな驚きを与えるに十分なほどに性能が向上した大規模言語モデル(LLM)を基盤とする「ChatGPT」というサービスの周知にもつながり、テクノロジー業界以外の人たちも続々と同サービス触れはじめたことで、“ドミノ倒し”のように世の中を大きく動かしていった。
2022年末に公開された当初、ChatGPTに注目して「来年(2023年)はLLMが世の中を大きく変え、あらゆるアプリケーションがAIを取り入れるようになり、それは半導体開発のトレンドやPCのアーキテクチャまで変え、さまざまなジャンルでの常識が変わっていく」といった推察はできたとしても、(ChatGPTそのものには感心しながらも)たった1年でこれほど世の中が“変化”すると予想できた人はほとんどいなかったはずだ。そんな“予想外”な2023年を振り返っていこう。
あらゆる人がAIに向かって走り始めた
一言で“AI”といっても、テクノロジーに明るい読者なら「AI研究のうちのどのような要素(ジャンル)の話?」と疑問を持つだろう。2022年は、先にも触れたLLMだけでなく、イラストや音楽など、それまで比較的閉じた世界で開発されてきたさまざまな生成AIが“可視化”され、一部は商業製品にも搭載されるようになった。
しかし、技術は一夜にして生まれるものではなく、驚きを与えてくれるあらゆる技術は、そのどれもが何年もかけて進化してきたものだ。ソフトウェアの世界では、開発メソッドやツールの進化で開発速度は上がっているが、それでも“積み重ね”は欠かせない。ハードウェアならなおさらであり、半導体の世界ならコンセプトを固めてから実際に製品化されるまでに3年はかかる。
つまりドミノ倒しのように、さまざまなAI技術が世の中を変えたように見えるものの、実際に各ジャンルを掘り下げてみると、この革命的な変化は数年前から起きていたということだ。ChatGPTのベースとなっている、OpenAIのLLM「GPT(Generative Pretrained Transformer)」であれば、Microsoftは企業向け簡易開発ツールの中に、LLMによるコード生成機能を約2年前から組み込んでいる。
Microsoft傘下のGitHubでは、2021年7月からLLMによるコード生成支援機能「GitHub Copilot」のプレビュー提供を始めていた。現在は正式な機能となっているが、テクノロジーは“ポッと出”ではないことが分かるエピソードといえるだろう
最も重要なことは、技術に対して正面から取り組んできたエンジニアリングそのものの“質”であることは間違いない。ただ、2023年のテクノロジートレンドを支配したのは“AIの周知”に他ならない。
ChatGPTという形で、誰もが使えるLLMが公開されたことで、世界中の人が生成AIに注目し始め、生成AIが作り出したイラストがネット上のあらゆる空間を埋め尽くすようになったことで、生成AIの応用が具体的にお金を生み出す形で進み、一気にエコシステムを形成し始めた。
そうなってくると、いろいろな場面で小さな成功事例が生まれ始め、小さな成功事例は「自分たちもAIを使いこなせる」という新たな常識を生み出し、ありとあらゆる業種のシステムソリューションでAIを利活用する試みが見られるようになった。
AIに膨大な学習を施すための仕組み、学習後の大規模モデルを効率的に動かす仕組みが求められるようになると、大規模な学習モデルをクラウドではなくオンプレミス(閉鎖環境)でも動かしたいというニーズも生まれてくるし、さらには手元のPCでローカル処理したい、という流れにもなる。
NVIDIAが生成AIの流行に乗じてAI向けプロセッサのジャンルで売上を伸ばす一方で、MicrosoftもAIに特化した半導体チップ「Azure Maia 100」の開発を進めていたことが明らかになっている。名前の通り、このチップは「Microsoft Azure」において自社提供のサービスから使い始めるようだが、一通りの実績を積んだ上で、顧客向けの標準メニューとしても導入されるだろう。
- →With a systems approach to chips, Microsoft aims to tailor everything ‘from silicon to service' to meet AI demand
- →米Microsoft、AI向けに独自のArmプロセッサ「Cobalt」とAIアクセラレータ「Maia」を開発
クラウド向けAIプロセッサ(NPU)は、AIドミノ倒しのごく一部の現象でしかない。もっと身の回りで多くの変化が起きているのを感じているだろう。そしてその流れは、Windowsが稼働するPCの領域にもやってきている。
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